
はてなベース株式会社は、「IT×会計」という独自の強みを武器に、企業のバックオフィス業務を丸ごと変革しています。同社は、主要SaaSを横断的に連携させるバックオフィスBPR事業と、全国の地方人材にクラウド会計スキルを提供する教育研修事業の二本柱で成長を続けています。代表取締役の世戸口逸人氏は、公認会計士試験合格後に大手監査法人でのキャリアを経て2023年に起業しました。今回は、会計とITの融合で新たな市場を切り拓く世戸口氏に、事業の詳細や起業の経緯、そして今後の展望についてお話を伺いました。
当社は、大きく分けてバックオフィスBPR事業とクラウド会計人材育成事業の2つを展開しています。
1つ目のバックオフィスBPR事業は、顧客管理ツール(CRM)の構築と、クラウド会計ソフト導入を組み合わせた支援です。
「BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)」という名の通り、バックオフィス全体の業務プロセスを見直し、ツール同士のデータを一気通貫で繋ぐことに特化しています。
企業がさまざまなSaaSツールを導入しても、それぞれのデータが連携されていないために業務が非効率になってしまうケースは非常に多くあります。
例えば、顧客管理システムで管理している取引先情報と、会計ソフト上の取引先マスターが一致していなければ、担当者はその都度手作業で修正しなければなりません。こうしたツール間の「情報の断絶」を解消するのが、私たちの得意とするところです。
2つ目のクラウド会計人材育成事業は、教育コンテンツの提供を通じて、全国各地の潜在的な経理人材をクラウド会計のスペシャリストへと育成するものです。
フリー株式会社様の協賛を受けて制作した48本のeラーニングコンテンツに加え、実際にfreee会計のデモ環境を使って約10営業日で月次決算を体験する実地研修も行っています。
意図的にトラップを仕込んだ擬似実務環境の中で、受講者に試行錯誤させながらスキルを定着させるのが私たちの研修スタイルです。
育成した人材は、会計事務所やBPO会社、さらには当社の案件にもアサインしており、仕事と家事を両立したい女性を中心に、AI時代の雇用創出にも貢献しています。
当社の強みは、会計に精通したメンバーと、データサイエンスやAPI連携を担うエンジニアが同じ組織にいる点です。CRM構築から会計ソフト導入、そしてそれらの連携まで横断的に担える会社は非常に少なく、そこに私たちの競合優位性があります。

起業の根本にある動機は、「自己実現の尺度を増やしたい」という考えです。
その原点は大学受験期にあります。私は中高一貫の進学校に通っており、東大・京大・医学部への進学が大きな評価基準となる環境で学んでいました。
しかし、高校2年の夏に一度折れてしまい、第一志望だった大学には届かず、慶應義塾大学へ進学しました。受験で果たせなかった目標への思いから、公認会計士試験に挑戦し、大学4年時に試験合格しました。
卒業後はPwCグループ(旧PwCあらた有限責任監査法人)に入所し、監査業務に携わる中で、自分自身が長年にわたり「偏差値を上げること」という一つの尺度だけで自己実現を追い求めてきたのではないかと考えるようになりました。
もっと別の形で自分の可能性を試したいと思うようになり、その先にあったのが起業という選択でした。
起業によって、社会に価値を提供することや、一緒に働く人を幸せにすることなど、これまでとは異なる形で自己実現を追求できるようになりました。
また、自分たちでゼロから生み出した事業が社会にどのように受け入れられるのかを、自ら確かめてみたいという思いもありました。
その後、飲食テックベンチャーでバックオフィス業務を経験する中で、「IT×会計」という自分の強みや事業の方向性が明確になり、2023年2月に、はてなベース株式会社を設立しました。
設立後は、主要な業務システムベンダーとのパートナー連携を約2年かけて構築してきました。その結果、現在では紹介だけに依存することなく、継続的に案件を創出できる体制を整えることができています。
仕事におけるこだわりは2つあります。
1つ目は、社会貢献量の対価として売上があるという考え方を徹底していることです。売上を立てるだけなら、例えば高単価の人材を引っ張ってきて横流しする、といった手法もあるかもしれません。
しかし私が大切にしているのは、私たちの実績や専門性、提案力によって生み出した価値に対して、正当な対価をいただくという姿勢です。誇りを持って、高い品質の製品とサービスを届けることにこだわっています。
2つ目は、稲盛和夫さんの言葉である「手の切れるほどの商品を作れ」を常に意識していることです。この言葉は、誰にも真似できないレベルまで磨き込まれた製品やサービスを追求することの重要性を示していると考えています。
この考え方は、私たちの教育研修事業にも通じています。freee会計研修をはじめ、主要な業務ツールに関する研修を幅広く提供しており、「研修を受けるなら、はてなベースを選びたい」と思っていただける価値を提供することを追求しています。
特に苦しかったのは、2024年4月頃です。取引先の一社との契約が突然終了したことに加え、想定外の支出も重なり、資金繰りが一気に厳しくなりました。
ただ、こうした不測の事態に備えて、日頃から金融機関との関係を構築し、借入枠を確保していたことが功を奏し、何とか乗り切ることができました。
実際、資金面への不安は、多くの人が起業をためらう大きな理由の一つだと思います。私自身、「本当に潰れそうな時は社員には言えない」と感じた瞬間もありましたが、モチベーションにつながる程度の情報はオープンに共有するよう心がけています。
経営者として学んだのは、お金の流れを感覚ではなく数字で把握し、常に一定の余力を確保しておくことの重要性です。
どれだけ良いサービスや技術があっても、キャッシュが尽きれば事業は継続できません。その意味で、キャッシュフロー管理は経営における最も重要な責任の一つだと考えています。

モチベーションの源泉は、見えないものが見えるようになる感覚です。
私たちはまだ数億円規模の会社ですが、売上10億円の経営者はどんな景色を見ているのか、100億円の経営者にはどんな世界が広がっているのか、それが純粋に気になって仕方がありません。
また、競争心もモチベーションの一つです。同業他社の動きを見れば見るほど、「絶対に負けたくない」という気持ちが湧いてきます。これは大学受験時代から染みついたものかもしれませんが、この闘争心が今も自分を前に進める推進力になっています。
2つの事業それぞれに明確な目標があります。
バックオフィスBPR事業については、freee・Money Forward・勘定奉行クラウド・kintoneをはじめとする主要ツールベンダーとの関係をさらに深め、あらゆるツールの中からお客様に最適なものを最も正確に提案できる会社になることを目指しています。
AIが台頭する時代だからこそ、AIには代替できない連携と横断的判断の専門家として、揺るぎない立ち位置を確立していきます。
クラウド会計人材育成事業については、日本で一番クラウド会計研修を提供している会社として、全国の地方に雇用創出の拠点を作ることが目標です。
freee会計研修だけでなく、Money Forward研修、勘定奉行クラウド研修と研修ラインナップを拡充していきたいと思っています。

私の起業体験は、ある意味で特殊かもしれません。大きな失敗も、資金繰りの苦労も経験してきました。だからこそ簡単に起業しろとは言いません。
ただ一つ言えるのは、起業は自己実現の可能性を大きく広げてくれる手段だということです。
社会に貢献すること、一緒に働く仲間を幸せにすること、自分が立ち上げた事業が世の中に受け入れられるかを試すことはすべて、自分で会社を作ることで初めて得られるものです。
特に、会計士や経営コンサルタントとして活動している方々に伝えたいのは、プレイヤーとしての経験なしにコンサルティングをするなということです。
実際に自ら事業運営に携わり、当事者として課題や意思決定に向き合った経験があるかどうかで、支援の質や言葉の説得力は大きく変わります。そうした経験を積む場としても、ベンチャー企業への挑戦は非常に意義のある選択肢です。
キャリアの選択肢として起業を考えるなら、ぜひ一歩踏み出してみてください。
愛知県小牧市出身。東海高等学校卒業後、慶應義塾大学商学部へ進学。在学中に公認会計士論文式試験に合格。卒業後はPwCあらた有限責任監査法人に入所し、金融業界の監査業務を約2年経験。その後、飲食テックベンチャーのリディッシュ株式会社に転職し、人事・バックオフィス業務を担当。2023年2月、「IT×会計」を強みとするはてなベース株式会社を設立。日本公認会計士協会準会員。一般社団法人DIGITALBASE理事。
|
法人名 |
はてなベース株式会社 |
|
HP |
|
|
設立 |
2023年2月 |
|
事業内容 |
|
関連記事
関連記事