株式会社ウェルクス  代表取締役 伊奈絵里佳 氏

株式会社ウェルクスは、検査を入口に、自分のからだの状態を知り、必要な行動や医療へつながる仕組みづくりに取り組むヘルステック企業です。自宅でできるセルフ検査と、検査後の受診支援を組み合わせた健康プラットフォーム「ReadyMe」を中核に、医療機関や検査機関と連携しながら、女性が自分のからだについて知り、次の行動を選べる環境づくりを進めています。

今回は、代表取締役の伊奈絵里佳氏に、事業を始めた背景やフェムテックからヘルステックへと事業を転換してきた経緯、そして検査から医療までをつなぐ仕組みづくりについて伺いました。

検査を入口に、女性の健康課題を早期発見へつなぐプラットフォーム

事業の内容をお聞かせください

当社は化粧品事業からスタートし、創業当時は女性の健康課題に向き合う「フェムテック」領域で事業を展開してきました。現在は、検査を入口に、自分のからだの状態を知り、必要な行動や医療につながる仕組みをつくる「ヘルステック」企業へと転換しています。

 

現在は、検査・健康プラットフォーム「ReadyMe(レディー・ミー)」、妊活・不妊治療を中心とした情報メディア「Femtech Media(フェムテック・メディア)」、フェムケア商品「Femly Labo(フェムリィ・ラボ)」の3事業を展開しています。

 

事業の形はそれぞれ異なりますが、根底にあるのは、からだについて「知らなかった」ことで、人生の選択肢が狭まる人を減らしたいという考えです。

 

なかでも今後の中核事業と位置付けているのが「ReadyMe」です。私たちが目指しているのは、単に検査キットを提供することではありません。検査を入口に、自分のからだの状態を知り、結果を理解し、必要な行動を選び、必要に応じて医療へつながるところまでを一貫して支援することです。

 

具体的には、腟内フローラや炎症など可視化して不妊リスクに繋がる状態を把握する検査、女性ホルモンやカンジダ等の更年期世代に悩みの多い状態を把握する検査、子宮頸がんなどの原因となるHPV(ヒト・パピロマー・ウィルス)等を調べる検査など、女性のデリケートゾーンのトラブルに特化した検査を展開しています。これらを検査機関と提携し、高い精度で提供しています。  

 

現在、特に届けたいと考えているのは、仕事や家事、育児など、日々の忙しさのなかで、自分のからだのことを後回しにしがちな女性たちです。

 

これまで多くの女性と働き、ヒアリングを重ねるなかで、妊娠を望んだ段階で不妊の可能性を知った方や、受診したときには病気が進行していた方など、「もっと早く自分のからだの状態を知っておけばよかった」と後悔するケースを数多く目の当たりにしてきました。

 

忙しい毎日の中でも、病院へ行く前の段階で自分の身体の状態を知ることができる仕組みが必要だと感じ、検査キットと健康プラットフォームを展開しています。

 

検査市場自体は新しいものではありません。会社で行われる年に1回の健康診断や自治体からの検診を受けたことがある人は多いのではないでしょうか。

 

一方で婦人科検査は健康診断でもオプションとなっていることが多く、受けない方もいらっしゃいます。また、婦人科検診は他の検診と比較して「恥ずかしい」「痛い」などの理由で検査ハードルは高く、検査にそもそも行くのをためらうひとは少なくありません。

 

順天堂大学の調査に、印象的な数字があります。働く女性が月経痛や更年期症状などの不調を感じたとき、産婦人科を受診した人は19.0%。最も多かった回答は「何もしていない」で、43.9%でした。

 

受診した人でさえ、症状を自覚してから婦人科にたどり着くまで平均2.2年かかっている。2年という時間は、放置していい長さではありません。※1

 

検診も同じ構図です。子宮頸がん検診の受診率は、市区町村が実施する検診で16.0%。20年以上、半数に届かない状態が続いています。

 

私たちが問題だと感じているのは、その先です。「精密検査が必要」と判定された人のうち、実際に精密検査を受けたことが確認できたのは78.0%。残りの約22%は、受けていないか、受けたかどうかすら把握されていません。検査を受けるところまでは進んだのに、その次で切れてしまっている。※2

 

つまり、検査を届けるだけでは足りないということです。

 

そこで私たちは、場所や時間にとらわれず、自宅から自分のからだを知ることができる検査を提供しています。ただ、結果を返して終わりにはしません。

 

結果を理解し、次に何をすればよいのかを知り、必要な場合には医療機関へつながる。検査結果に応じて、婦人科やオンライン診療など、適切な医療につながるための受診支援を行っていきます。

 

婦人科領域では触診や超音波検査が欠かせません。だからこそ、自宅の検査で完結させるのではなく、必要に応じて実際に医療機関を受診していただくことを前提に設計しています。全国の医療機関にアクセスしやすい仕組みを整え、受診までの導線を短くしていく。そこまでが私たちの役割だと考えています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

起業の原点は、私自身の経験にあります。当時、ハードワークが続き、自覚症状がないまま婦人科系の疾患が見つかり、手術を受けることになりました。術後は約1カ月にわたって出血が続くなど、心身ともに大きな負担を経験しました。 

 

もうひとつの起点は、仕事を通じて多くの女性と接するなかで得た実感です。女性特有の健康課題は「存在しない」のではなく、「顕在化していない」だけであり、デリケートな問題だからこそ周囲に相談できない人が多いと実感しました。

 

実際に、私が自身の手術経験を話すようになると、「実は子宮を摘出している」「何年も不妊治療を続けている」と打ち明けてくださる方が数多くいることに驚きました。

 

最初に立ち上げたオリジナルブランド「Femly Labo」も、自身の経験が出発点です。婦人科手術の後、出血が続く中でデリケートゾーンケアに興味を持ちました。

 

デリケートゾーンは他の体の部位に比べて吸収率が高いと言われています。特に成分へのこだわりがあった私は、「自分が安心して使いたいと思える商品をつくろう」と考え、開発を始めました。 

 

また、メディア事業「Femtech Media」は、主催する婦人科セミナーを通じて「なぜこうした情報を今まで知らなかったんだろう」という声を数多くいただいたことがきっかけです。

 

そこで、専門的な医療情報を分かりやすく伝えるメディアとして立ち上げました。現在は、妊活や不妊治療を中心に、からだを知り、将来の選択肢を考えるための情報を届けるメディアへと再構築を進めています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

起業当時は「フェムテック」という言葉の認知も現在ほど高くなく、女性特有の健康課題を扱う商品やサービスに対する市場もまだ発展途上でした。社会的なニーズを感じる一方で、それを持続可能な事業として成立させる難しさがありました。

 

新しい市場だからこそ可能性を秘めているとも捉えていましたが、資生堂の経験もあり、化粧品を売る難しさを充分に理解していました。そのため、大衆向けに届けるのではなく、ターゲットを明確にして一部の層に支持していただけるように考えました。

 

そこで国内だけに視野を限定せず、女性の健康課題に対するニーズや市場がどのように形成されているのかを知るため、起業当初からアメリカや中国にも足を運びました。現地でのイベント出展や商談を通じて、日本とは異なる市場や消費者の価値観を学び、事業の可能性を探ってきました。

 

女性が我慢せず自分の体と向き合える社会のために

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

私が目指しているのは、健康を理由に、人生の選択肢を狭めなくていい社会です。

 

女性は仕事・家事・育児などに追われ、自身の不調をつい我慢してしまうことが少なくありません。実際に、働きすぎて気づいた時には不妊や病気になっていた方を数多く見てきました。

 

だからこそ、我慢することが当たり前ではなく、自分の体と向き合う時間や自分のライフステージを歩む上で選択肢を持てる環境が必要だと考えています。

 

健康課題は個人だけの努力に委ねるものではなく、社会全体で支える仕組みづくりが重要です。女性が安心して自分の健康と向き合える環境を広げ、その変化を後押ししていくことが、私が事業を続ける最大のモチベーションになっています。

今後やりたいことや展望をお聞かせください

私たちが目指しているのは、検査を受ける人を増やすことだけではありません。自分のからだを知ることが、特別な行動ではなく、日常のなかで当たり前になる社会をつくることです。

 

早い段階から自分の状態を知り、必要なときには適切な医療につながる。そして、妊娠、仕事、治療、ライフステージの変化などを前にしたとき、自分自身で選択できる。

 

検査は、そのための入口です。

 

「知らなかった」ことで人生の選択肢を狭める人を減らす。そのための仕組みを社会に実装していくことが、これからウェルクスが取り組んでいきたいことです。

 

やらない後悔より、やった後悔

起業しようとしている方へアドバイスをお願いします

人生は一度きりです。だからこそ、 「やらない後悔」より、「やった後悔」を選んでほしいと思います。起業にはもちろんリスクがありますが、以前と比べて、小さく事業を始めて検証できる環境も整ってきています。

 

挑戦しやすい環境が整っている今だからこそ、まずは一歩踏み出してみることが大切だと思います。

 

最初から完璧を目指す必要はありません。私自身も、最初から今の事業の形が見えていたわけではなく、挑戦し、試し、改善することを繰り返してきました。まず一歩踏み出してみること。その先で得た経験や出会いが、次の選択肢につながっていくと思います。

 

まずはハードルを高く考えすぎず、「やってみよう」という気持ちで一歩を踏み出してほしいです。

 

採用を強化されているそうですね

採用で大切にしているのは、今ある正解に合わせるのではなく、「もっとこうできるのではないか」と考え、自分から動けることです。

 

私たちが向き合っている領域には、まだ社会の仕組みとして整っていないことがたくさんあります。だからこそ、完成された環境で決められた仕事をするというより、自分たちで考え、試しながら、新しい仕組みをつくっていくことを楽しめる方と働きたいと思っています。

 

そして何より、からだを知ることが、その人の人生の選択肢につながるという考えを大切にできること。ウェルクスと一緒に、これまでになかった「当たり前」をつくっていける方に仲間になっていただきたいです。

 

採用サイトはこちら

 

※1

西岡笑子、飯島佐知子、三上由美子、横山和仁「働く女性の健康に関するWeb調査 ―女性特有症状とその対処およびがん検診受検状況 正規雇用と非正規雇用の比較―」順天堂大学保健看護学部『順天堂保健看護研究』第12巻(2024) P.12-23(2018年1月、全国の20〜65歳未満の働く女性2,000名を対象としたWeb調査)

 

※2

厚生労働省「令和6(2024)年度 地域保健・健康増進事業報告」(子宮頸がん検診受診率は市区町村が実施する検診によるもの。厚生労働省「2025年 国民生活基礎調査」では46.1%。精密検査の受診状況は令和5年度分)

 

本日は貴重なお話ありがとうございました。

起業家データ:伊奈 絵里佳 氏

大学卒業後、資生堂にてキャリアをスタートし、美容・ヘルスケア領域での経験と自身の健康課題の原体験から、2023年に株式会社ウェルクス(Welx Inc.)を設立。創業当初はフェムテック領域から事業をスタートし、現在は、検査を入口に自分のからだの状態を知り、必要な行動や医療への接続までを支援するヘルステック領域へと事業を転換。医師・医療機関・検査機関との連携を進め、健康プラットフォーム「ReadyMe(レディー・ミー)」の開発・社会実装に取り組んでいる。

フェムケアブランド「Femly Labo」は海外の5つ星ホテルへの導入実績を持ち、集英社yoi「第3回フェムテック&フェムケアアワード」でも選出されるなど、国内外で女性の健康課題に向き合う事業・活動が評価されている。

企業情報

法人名

株式会社ウェルクス

HP

https://welx.ne.jp/

設立

2023年4月12日

事業内容

  • 検査を入口に、からだの状態を知り、必要な行動や医療への接続を支援する健康プラットフォームの運営(ReadyMe)
  • 妊活・不妊治療を中心とした、女性の健康と選択を支える情報メディアの運営(Femtech Media)
  • 女性のライフステージに寄り添うフェムケア商品の企画・開発・販売(Femly Labo)
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