株式会社バイティ 代表取締役 石垣 貴義氏

株式会社バイティは、お客様が飲食店を応援すると自分のキャラクターが育つアプリ「Bitee」を企画・運営しています。日本のおひねり文化をもとにした「twist」で、お客様の感謝を届け、店の接客そのものを収益に変える仕組みが特長です。今回は、代表取締役である石垣貴義氏に、事業を始めた経緯や起業から今までの最大の壁について伺いました。

感謝を送るとキャラクターが育つ、接客を収益に変えるアプリ

事業の内容をお聞かせください

当社は、お客様が飲食店を応援すると自分のキャラクターが育つゲームを通じて、接客そのものを飲食店の新しい収益にするアプリ「Bitee(バイティ)」をつくっています。自分だけのグルメモンスターを育てながら、お店を応援していただく仕組みで、接客そのものを新たな収益源に変え、飲食店の持続可能な経営を支えることを目指しています。 

 

当社では、お店への応援をチップではなく「twist(ツイスト)」と呼んでいます。海外のチップは、接客の対価として義務的に支払うもので、飲食代に20%、30%を上乗せすることへの疲れがアメリカでは問題になっています。

 

一方で日本には、芸事を見たときの「おひねり」や心づけ、お祝儀のように、相手と良い関係を築きたい気持ちをお金で表す文化が本来ありました。twistの名前は、このおひねりからヒントを得たものです。

 

例えば、飲食店で仲良くなったスタッフに「ビールを一杯どうですか」と声をかけることがあります。しかし、スタッフは仕事の手を止めなければなりませんし、車やバイクで来ている方や、年齢的にお酒を飲めない方もいます。twistであれば、そうした負担をかけずに感謝を届けられます。

 

金額は、受け取る側が怖くならないよう設計しました。普通に働いていて5,000円をもらったら、かえって戸惑うのではないかと考えたからです。そこで1回のタップを100円とし、1回の応援で2〜3タップ、200〜300円程度になることを想定しています。

 

こうした小さな感謝も、積み重なれば飲食店の大きな収益源になる可能性があります。twistはお店の収益となり、スタッフへの分配や社員旅行の費用など、使い道はお店ごとに自由に決められます。実際、他社のモバイルオーダーサービスでは、年間約200万円のチップ収入を得ている店舗もあります。チップは原価がかからないため、ほぼそのまま利益になります。

 

飲食店の利益率は一般的に8〜10%程度といわれており、200万円の利益を通常の営業で生み出そうとすれば、利益率10%の場合、約2,000万円の売上が必要になります。twistにはそれぐらい大きな可能性があると考えています。

 

さらに、受け取ったtwistの数やお客様からのメッセージはスタッフ向けのアプリに記録されます。

 

飲食店で働く方が転職する際、単に「ホールで働いていました」と伝えるだけでなく、「お客様からこのような評価をいただいてきました」と、自分の接客力を具体的に示せるようになります。こうした記録を、採用や待遇の向上にも役立ててほしいと考えています。

 

また、twistの履歴を活用し、AIがお客様の好みに合った飲食店を提案する機能も開発しています。一般的なAIのお店探しでは、利用者が実際にどこへ行き、そのお店で何を感じ、どのような体験をしたのかまでは反映されません。

 

Biteeでは、どのお店でどのような体験に感謝を示したのかが記録として蓄積されるため、一人ひとりの好みをより深く理解した提案ができるようになります。twistによる応援からキャラクターの育成、お店の提案までの一連の仕組みについて、特許を取得しています。

 

ビジネスモデルとしては、飲食店やお客様から基本的に利用料をいただかず、広告を中心に収益を得ることを想定しています。Biteeには飲食店の決裁者向け、スタッフ向け、お客様向けの3つのアプリがあり、それぞれに直接情報を届けられることが強みです。

 

特に飲食店向けの商品やサービスを提供する企業にとって、一般的なWeb広告では届きにくい飲食店の決裁者にアプローチできる広告媒体を目指しています。お客様の感謝が飲食店の収益につながり、スタッフの働く価値も高まっていく。Biteeを通じて、そんな新しい応援の文化を広げていきたいと考えています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

もともとはミュージシャンに憧れ、音楽に打ち込んでいました。その後、地元沖縄県でアパレルや飲食店を経営し、上京してからはデザインや広告企画など、いろいろな仕事をしてきました。その中でも飲食の仕事は、とにかく刺激的でした。

 

その後ご縁があって経営を引き継いだ飲食店は、もともとお客様に愛されているお店でした。しかし、資金繰りが厳しくなるにつれ、店長の表情は次第に曇っていきました。売上を意識するあまり、お客様を売上の数字として見てしまうようになったのかもしれません。その結果、お客様が離れ、さらに売上が落ち込むという悪循環に陥っていました。

 

そこで、資金面の負担を私が引き受けることにしました。すると、店長の接客が良くなり、スタッフにも笑顔が戻ってきたのです。売上も以前を上回るようになりました。もちろん、それだけが要因ではないと思いますが、この経験から、人と人とのつながりを大切にする飲食店だからこそ、コミュニケーションが直接収益になる仕組みがあってもよいのではないかと考えました。

 

例えば、お店のことが好きで応援したい気持ちがあっても、お腹がいっぱいなのにもう一品、だいぶ酔っているのにもう一杯、というのはさすがに難しいものです。そんなとき、良い接客への感謝を少額で届けられる仕組みがあったら、気軽に応援できると思いませんか。

 

その後、事情があってお店を手放すことになりましたが、私自身、飲食店から撤退した経験があるからこそ、お客様に愛されるお店には一日でも長く続いてほしいと思っています。そのためのインフラとして、おひねりの文化を取り入れた「twist」を日本の飲食業界に広めていきたいと考えています。

 

振り返ると、私の仕事はいつも人とのつながりから広がってきました。音楽に熱中していたことがアパレルや飲食の仕事につながり、その後のデザインや広告、CtoCプラットフォームの事業責任者としての経験も、今のBiteeにすべて生きています。

 

今年で45歳。スタートアップの立ち上げとしては遅いかもしれませんが、だからこそ、これまでの経験がなければできない事業にしたいと思っています。

飲食店から取らず、飲食業界が続く仕組みに挑む

仕事におけるこだわりを教えてください

仕事においては、自分が生み出すものの細部までこだわることを大切にしています。Biteeのキャラクターデザインから画面設計、企画まで、基本的には私が手がけてきました。開発はチームにお願いし、デザインの微調整もプロに頼んでいますが、サービスの設計は自分で行っています。

 

認知を広げるため、3連休を使って、AIで宣伝動画をつくったこともありました。

 

ただ、今後事業を大きく成長させていくには、私一人の力では限界があります。これまでは自分でつくることにこだわってきましたが、これからは信頼できるプロフェッショナルを巻き込み、一緒にBiteeを育てていくことにこだわりを移していきたいと考えています。

 

ただ、チームの形が変わっても、事業の根底にある「飲食店に費用を負担させるのではなく、飲食業界の持続可能性に貢献する」という考えだけは変わらず大切にしていきたいと思っています。おこがましい言い方かもしれませんが、これは私自身の哲学でもあります。

 

一方で、この思いをチーム全員と共有できているかというと、まだ十分ではない部分もあります。チームのメンバーは現状、社外のパートナーです。上下関係ではなく、対等な立場で一緒に取り組んでいます。だからこそ、考えを一方的に伝えて指示を出すだけではなく、まずはBiteeという事業そのものの可能性や面白さを感じてもらうことを大切にしています。

 

Slackでは「こんな会社から連絡が来た」「なぜこの機能を追加したいのか」といった情報を、できる限り共有するようにしています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

最大の壁は、飲食店のためにつくったサービスであるにもかかわらず、その飲食店になかなか導入してもらえないことです。起業から約1年、資金調達や金融庁への確認、サービス開発など、さまざまな壁をなんとか乗り越えてきましたが、これは今も乗り越えられていない課題です。

 

当初は、飲食店の収益を増やすサービスなのだから、お店には応援してもらえるだろうと考えていました。そのため、いかにお客様に使っていただくかを中心にサービスを設計していたのです。ところが、実際にはその手前の店舗導入でつまずいてしまいました。想定していた前提が崩れ、目の前が真っ白になるような思いでした。

 

理由の一つは、店舗側の負担が大きいことです。飲食店は非常に忙しく、ドリンクの受け渡し場所やスタッフの動線を工夫し、一歩でも無駄を減らしながら営業しています。そこに新しい作業を一つ加えるだけでも、大きな負担になります。さらに、Biteeはまだ実証段階のため、「導入すれば年間これだけの利益が生まれます」と示せる実績もありません。

 

もう一つは、お客様が自発的に利用するきっかけをつくりにくいことです。モバイルオーダーであれば注文するためにQRコードを読み込みますが、Biteeは感謝を届けるためのサービスなので、必ずしも利用する必要がありません。

 

そこで、来店時にQRコードを読み込んで「チェックイン」すると、ルーレットでクーポンが当たる仕組みを用意しています。ただ、それでもスタッフから「クーポンが当たるので、よければチェックインしてみてください」と声をかけていただく必要があり、その一手間も店舗にとっては負担になってしまっています。

 

こうした課題を乗り越えるには、まず認知を広げ、導入による成果を一つずつ示していく必要があります。

 

現在は、スタッフの声がけがなくてもお客様が気づけるよう店頭POPを工夫したり、来店時に手渡すだけで「クーポンが当たるかも」と自然にアプリを開いてもらえるカードを試したりしています。また、パートナー企業と連携し、複数店舗での実証も進めています。

道半ばで店を手放した悔しさと、2歳の息子の存在

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

私を前に進ませているのは、道半ばで店を手放した悔しさと2歳の息子の存在です。

 

あのお店は、本当は長く続けたかったのです。仲間に囲まれ、お客様や隣のお店とも接点があり、知り合いがどんどん増えていく楽しい場所でした。店舗を増やしたい思いもありましたが、撤退せざるを得ませんでした。その悔しさが、Biteeを推し進めるエネルギー源になっています。

 

今まさに経営に苦しんでいるお店でも、そのお店を好きなお客様の応援があれば、息を吹き返せるかもしれません。そうした方々に、接客を収益の源にできる仕組みを届けたいのです。Biteeは、悔しい思いをした自分を、自分で救いに行っているようなものだとも思っています。

 

気持ちが折れそうなときは、息子と遊ぶのが一番です。私は今45歳で、だいぶ遅い第一子ですが、こんなにも気持ちを揺さぶる存在がいるのかと驚きました。彼が20歳になる頃には、私は60歳を超えています。だからこそ、彼のためにも今頑張らなければならないと考えています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください

まずは、接客の熱量が高い個人経営の居酒屋や、5〜10店舗規模のチェーン店から広げていきたいと考えています。実際に「ハラカド」で行った実証実験では、フードコートでの利用はほとんどありませんでした。スタッフとお客様の会話が生まれるお店ほど、twistとの相性が良いと感じています。

 

展開エリアとしては、東京に加え、株主であるグランマルシェ株式会社の拠点がある関西圏と、私の出身地である沖縄県を重視しています。まずはこれらの地域で協力企業や加盟店舗を増やし、3,000店舗ほどまで拡大することが当面の目標です。

 

その後は、シードラウンドでの資金調達も進めながら全国へ展開し、3万店舗まで増やしていきたいと考えています。Biteeのアイコンを見ただけで「飲食店を応援できるサービスだ」と分かってもらえる状態をつくりたいのです。

 

そうなれば、食事をして「おいしかった」と感じたとき、スタッフから案内されなくても、自分からtwistを送る文化が広がっていくはずです。フードコートのような場所でも使われ、どこに行ってもtwistで飲食店を応援できる。そんな環境を目指しています。

自分の経験の中にある、自分にしかできない事業の種

起業しようとしている方へアドバイスをお願いします

私は学歴があるわけでも、音楽で成功したわけでもなく、自分のお店すら続けられなかった人間です。いわゆるキラキラした起業家ではありません。だからこそ、これまでの人生経験や感じてきた悔しさ、思いを、自分にできる範囲で限界まで煮詰めることで、Biteeを生み、育てています。

 

市場や課題から考えて起業する方も多いと思いますが、私は自分の経験こそが一番の武器になると考えています。たとえば、MONGOL800の歌は、北海道出身の人が歌っていたら売れなかったと私は思っています。

 

沖縄県出身の当時の高校生が歌ったからこそ、曲から青い海や優しい人柄が浮かび、多くの人に届いたのではないでしょうか。かりゆし58も同じです。どこで育ち、何を経験してきたかは、つくったものに匂いとして残ります。

 

Biteeも、「ゆいまーる」をつくろうと思って始めたわけではありません。ただ今振り返ると、沖縄で生まれ育つ中で染みついた、助け合いを意味する「ゆいまーる」の気持ちが、自然とにじみ出たサービスなのかもしれません。

 

これから起業を考えている方も、自分の経験の中から、自分にしかできないものを見つけていただけるとよいと思います。

本日は貴重なお話ありがとうございました。

起業家データ:石垣 貴義 氏

1981年生まれ、沖縄県出身。学生時代はバンド活動に打ち込み、会社員を経て、沖縄県でアパレル店舗や飲食店を経営。デザイナーとしての活動や、CtoCプラットフォームの事業責任者も経験する。2026年1月に株式会社バイティを設立し、飲食×感情経済アプリ「Bitee(バイティ)」を企画・運営している。

企業情報

法人名

株式会社バイティ

HP

https://bitee.jp/

設立

2026年1月

事業内容

  • 感情データを活用したUX設計およびAIソリューション開発 / 飲食×感情経済アプリ「Bitee」の企画・運営

 

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