株式会社EveryWiLL 代表 須藤俊明氏

株式会社EveryWiLLは、宅配便を個人宅ではなく無人の受取拠点(置き配スポット)で受け取る仕組み「トリイク」の全国展開を進めています。配送事業者やECサイトを問わず、さまざまな荷物を一か所で受け取ることができ、利用者には荷物の受け取りに応じてポイントを還元。配送先を集約することで、ドライバーの配送負担を軽減すると同時に、利用者にもメリットを還元できる点が大きな特長です。今回は、代表である須藤俊明氏に、銀行員から起業に至った経緯や物流業界が抱える構造的な課題、そして「トリイク」を通じて目指すこれからの物流のあり方について伺いました。

ドライバーの負担を消費者にシェアする無人受取拠点(置き配スポット)「トリイク」

事業の内容をお聞かせください

当社が手がけているのは、無人の荷物受取拠点(置き配スポット)「トリイク」を全国に広げていく事業です。

 

ECの利用拡大によって荷物が増える一方、物流業界ではドライバー不足が深刻化しています。そこで当社は、荷物を個人宅へ届けるのではなく、地域の拠点に集約し、利用者が都合の良いタイミングで受け取れる仕組みをつくりました

 

配送先を集約することでドライバーの配送負担を軽減するとともに、削減できた配送コストの一部を、荷物を受け取った利用者へポイントとして還元します。

 

利用者はアプリで会員登録を行い、拠点のQRコードを読み取って入室します。自分の荷物を受け取り、その写真をアプリにアップロードすると、「トリイクポイント」が付与されます。ECサイトで買い物をする際は、配送先にトリイクの拠点住所を指定するだけで利用できます。

 

従来のコンビニ受け取りや宅配ロッカーでは、利用できる配送事業者やECサイトが限られる場合があります。一方、トリイクは配送事業者や購入先を問わず、さまざまな荷物を一か所で受け取れることが大きな特徴です。

 

荷物の配送先を拠点に集約することで、ドライバーが個々の住宅を回る必要が減り、不在による再配達も抑えることができます。配送先の集約と再配達の削減、その両方から、物流現場の負担軽減を目指しています。

 

トリイクの拠点展開では、すでに全国各地に広がる小売店舗網の活用を想定しています。小売店舗は生活動線上にあり、商品を運ぶトラックも日常的に出入りしているため、既存の配送網を生かしながら荷物の受け取り拠点として活用できると考えています。

 

設置のしやすさもトリイクの特徴の一つです。半個室のスペースに入退室管理用のデバイスを取り付けることで、既存の空間を活用して拠点をつくることができます。今後は、自動販売機ほどのスペースにも設置できる設備型の拠点も展開する予定です。

 

セキュリティ面では、扉に設置したデバイスで入退室を管理するとともに、拠点内に監視カメラを設置し、防犯性を高めています。

 

また、荷物の伝票に記載されるのはトリイクの拠点の住所のため、配送時に利用者の自宅住所を知らせる必要がありません。アプリを経由することで、荷物の受け取り時に別の苗字を使用することができるなど、プライバシーに配慮した仕組みを取り入れています。 

 

現在は置き配が一般的になりつつある中、トリイクでは荷物を室内の拠点で補完するため雨風にによる破損や盗難のリスクを抑えることができます。また、万が一盗難が発生した場合には、荷物1個につき最大3万円まで補償する仕組みも儲けています。 

 

一般的な街中の宅配ロッカーは、設備によっては設置に数百万円かかることがあります。、一方トリイクは、既存の空間に小型のデバイスやな設備を組み合わせることで、設置コストを抑えながら、安全性と利便性を両立した受け取り環境の実現を目指しています。

 

銀行員から起業家へ、ビジネススクールで出会った仲間との創業

事業を始めた経緯を教えてください。

私が就職活動をしていた頃は、大学卒業後の進路として商社や銀行などの日系大手企業を選ぶことがが一般的な時代でした。当時はドラマ「半沢直樹」が流行していたこともあり、銀行員という仕事に漠然とした憧れを抱き、銀行に入行しました。

 

入行後は法務を長く担当し、その後、経営企画や事業統括等を推進する部署に8年ほど在籍しました。銀行では一定期間で部署を異動することが一般的ですが、私は比較的長く同じ領域に携わり、経験を積むことができました。

 

その後、次のキャリアを考えるタイミングで、企業派遣による大学院進学の機会を得ました。当初はヨーロッパへの留学を考えていましたが、ウクライナでの戦争の影響を受けて国内留学へ変更となり、早稲田大学ビジネススクール(WBS)で学ぶことになりました。

 

ビジネススクールで経営について幅広く学ぶなかで視野が広がり、同時に、これまで銀行で積み重ねてきた経験や自身のキャリアを改めて振り返る時間を持つことができました。その結果、より大きな影響力を持って社会に貢献したいと考えるようになり、そこで出会った仲間とともに創業しました。  

 

物流の領域を選んだ背景には、当社が掲げる「利便性の裏側で苦しむ人を救いたい」という思いがあります。

 

この10年で、ITプロダクトによる課題解決が進む一方、オフラインの領域には、いまだ解決されないまま残されている課題が数多くあります。

 

なかでも物流は、私たちの暮らしに欠かせない身近なインフラでありながら、人手不足や再配達など多くの課題を抱え、国も制度の見直しや物流効率化を進めている領域です。

 

大学院での研究や授業を通じて物流業界について調査を重ねる中で、社会課題の解決と事業性を両立できる可能性があると感じ、この領域での事業立ち上げを決めました。

 

このミッションの原点には、私自身の生い立ちがあります。決して裕福な家庭で育ったわけではなく、身近にはドライバーとして働きながら、厳しい環境に置かれている人もいました。

 

今では、消費者はアプリひとつで簡単に商品を購入し、自宅まで届けてもらうことができます。しかし、その利便性の裏側では、ドライバーが大きな負担を背負っています。

 

利便性を追求するだけでは、持続可能な社会にはならない。そうした問題意識が、この事業を始める大きなきっかけになりました。

 

こだわりすぎず、議論を経て答えを出す

仕事におけるこだわりを教えてください。

むしろ、こだわりすぎないことを意識しています。

 

会社を経営していると責任もありますし、どうしても自分の事業ばかりに目が向き、いわば「親バカ」のような状態に陥りがちです。周囲の経営者を見ていても、自分の事業について聞かれると、相手の反応が見えなくなるほど熱心に話し続けてしまう人は少なくありません。

 

もちろん一つのことに集中して取り組むことは良いことですが、こだわりが強くなりすぎると、思うようにうまくいかなかったときのストレスも大きくなり、周囲との温度差が生まれてしまうこともあります。

 

また、失敗したときに気持ちを切り替えるまでに時間がかかってしまいます。だからこそ、「なんとかなる」という気持ちで、あまりこだわりすぎずに向き合うようにしています。

 

また、一人で答えを出すのではなく、議論を重ねた上でアウトプットにつなげることも大切にしています。どれほど優秀で経験豊富な人であっても、不確実性の高い今の時代に、何が正解なのかを一人で導き出せるとは限りません。

 

自分の中で「絶対にこうした方がいい」と思う場面であっても、あえて他の人を巻き込み、それぞれの意見を聞き、議論したうえで進めるようにしています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください。

小売事業者や自治体の方々に、物流問題を「自分たちの課題」として捉えてもらうことです。

 

小売業者や自治体にとって、物流問題は必ずしも目先の課題ではありません。一方で、「トリイク」の拠点を増やしていくためには、地域に場所を持つ方々の協力が欠かせません。


そのため物流効率化だけでなく、「トリイクを設置するだけで、それぞれにどのような価値が生まれるのか」を伝えることを大切にしています。

 

例えば、小売業者には、荷物を受け取りに来た利用者が、そのついでに買い物をすることで、新たな来店機会を生み出せるという価値があります。


自治体に対しては、置き配された荷物の盗難といった課題も踏まえ、地域に安心して荷物を受け取れる場所を作ることが、住民の安心・安全を支える防犯面での価値にもつながることをお伝えしています。

 

さらにこうした物流効率化に止まらない価値を国とも共有し、小売事業者などへの設置協力を後押ししていただくための働きかけも進めています。

 

仲間が増え、世の中の役に立てている実感

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

社会に必要とされているからこそ、協力してくださる方が増えていく。その実感が、何よりのやりがいにつながっています。 

 

自分の力を発揮し、それが世の中の役に立っていると実感できることに、大きな喜びを感じています。仕事を通じて自分たちの取り組みが必要とされているという手応えを得られることが、前に進み続ける一番の原動力になっているのだと思います。

 

当社はまだ小さな会社ですが、事業に共感し、協力してくださる方が少しずつ増え、仲間の輪が広がっている感覚があります。

 

拠点の展開はこれから本格化する段階ですが、国会議員や省庁、東京都をはじめとする自治体や市区町村とも連携しながら、社会実装に向けた取り組みが着実に進みはじめています。

 

物流の課題解決から、「利便性の裏側で苦しむ領域」へ

今後やりたいことや展望をお聞かせください。

今後は、ミッションに掲げる「利便性の裏側で苦しんでいる領域」の課題解決に、中長期的に取り組んでいきたいと考えています。

 

まずは物流が抱える課題解決に着実に取り組み、5〜6年で全国3,000拠点まで広げることが目標です。そのうえで、物流以外の社会課題にも事業領域を広げていきたいと考えています。

 

横展開したいのは、サービスそのものではなく、社会課題をビジネスとして解決していく仕組みです。当社では、サービスを利用する消費者とは別に、物流効率化や防犯といった価値を享受する自治体や店舗から委託料をいただくモデルを採用しています。

 

この仕組みやノウハウは、サービスの利用者と費用を負担する主体が異なる、ほかの社会課題の領域にも活かせると考えています。

 

直近では、消費者が利用しやすい場所に、トリイクの拠点を面的に広げていくことに注力します。あわせて9月からは、自宅に届いた荷物を撮影するとポイントが付与されるスマートフォンアプリを展開する予定です。

 

このアプリを通じて、自宅にいながら会員登録やサービス体験ができるため、近隣にトリイク拠点ができた際にもスムーズに利用をはじめることができます。また、利用者から「この店舗に設置してほしい」という声を集める仕組みもつくり、消費者のニーズを起点として拠点拡大につなげていきます。

 

さらに、再配達や置き配、指定時間など、荷物の受け取り方に応じて付与するポイントに差をつけることで、利用者が自然と物流負担の少ない受け取り方を選択できる仕組みを作っていく方針です。

 

リスクを取ることは、自分への投資になる

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします。

年齢を重ねるほど、新しい挑戦に踏み出すことは難しくなっていくと思います。今の仕事に満足していなくても、家族や住宅ローン、収入への不安などから、慣れた環境を離れることに躊躇する人は少なくありません。私自身も、そうした感覚はよく分かります。

 

起業すれば、一時的に収入が下がる可能性はあります。しかし、挑戦する中で身につけた能力や得られた経験は、その後どのような仕事をするうえでも大きな財産になると考えています。

 

私自身、起業した月に第一子が生まれました。起業を決断する前には、目先の収入だけで判断するのではなく、事業がうまくいった場合と、そうでなかった場合、それぞれについての30年間の年収まで試算し、長期的な視点から考えました。

 

そう考えると、起業をすること、リスクを取って挑戦することは、自分自身への大きな投資でもあります。人生を豊かにするのは、お金だけではなく、挑戦したからこそ得られる経験もそのひとつです。少しでも「やってみたい」という思いがあるのであれば、まずは一歩踏み出してみてほしいと思います。

本日は貴重なお話ありがとうございました。

起業家データ:須藤俊明 氏

大学卒業後は大手銀行へ入行、経営企画・DX推進・リテール事業統括部などを経験。その後早稲田大学大学院へ入学し、MBAを取得。大学院在学中の2024年10月に、同級生とともに株式会社Every WiLLを創業、荷物を届けない運送サービス「トリイク」事業を手掛ける。2025年には国土交通省「多様な受取方法等の普及促進実証事業」の補助対象事業者に、国内スタートアップ企業で唯一かつ初めて採択される。その他アクセラレーションプログラムでの採択やビジネスプランコンテストの受賞も多数。

企業情報

法人名

株式会社EveryWiLL

HP

https://everywill-jp.com/

設立

2024年10月23日

事業内容

  • 荷物を届けない運送サービス「トリイク」の展開
  • 荷物受取り・配送・手荷物預かり等の領域におけるシェアリングエコノミーサービスの構築
  • 経営・物流・不動産・マーケティング等のコンサルティング業務
  • 上記に附帯関連する一切の業務、その他関連業務

 

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