株式会社Carjany  代表取締役  渡邊裕太氏

株式会社Carjanyは、複数メーカーの新型車を最大7日間・セールスの同乗なしで自由に乗り比べできる新型車試乗サービス「Carjany(カージャニー)」を提供しています。損害保険会社である東京海上日動のネットワークとリスクマネジメントの知見を活かし、自動車ディーラーから試乗車を預かって仲介する独自のビジネスモデルが強みです。今回は代表取締役である渡邊裕太氏に、経済産業省の支援制度である出向起業を活用した事業立ち上げの経緯や、エンドユーザーとパートナー企業の双方をWin-Winにする経営哲学について伺いました。

営業を受けずに新型車を乗り比べる、クルマ選びの新しいスタイル

事業の内容をお聞かせください

当社は、新車の購入におけるクルマ選びに特化したサービスを提供しています。自分たちをクルマ選びの新しいスタイルを創る存在だと定義しており、現在のクルマ選びのあり方をアップデートしていくことを目指しています。 

 

現在、特に新車を購入する際は、自動車ディーラーに足を運び、対面スタイルで営業担当者と商談するのが一般的です。自動車ディーラーの営業力は非常に強く、買い手であるユーザーと売り手であるディーラーを比べると、圧倒的に売り手が強い構造になっています。当社は、こうした関係をイーブンにしていくことを大切な哲学としています。 

 

その第1弾として展開しているのが、乗り比べサービス「Carjany」です。高額な車をいきなり商談して買う人はいませんし、オンラインで気軽に買うものでもありません。実際に乗って乗り心地やデザインを確かめたり、自宅の駐車場に入るか試したりと、自分の生活に合うかを確認してから購入したいと考えるのが自然です。  

 

ところが、現在のディーラーでの試乗は、店舗周辺を一周する程度で、営業担当者が同乗し、そのまま商談になるケースが一般的です。そこでCarjanyでは、ショッピングモールに複数ブランドの車をディーラーから預かり、ユーザーが料金を払えば、営業を受けずに自由に試乗できる環境を提供しています。

 

大きな特徴は、当社自身が車を保有していないことです。ディーラーから車を借りてユーザーに提供することで、アセットを持たずにサービスを展開しています。

 

この仕組みは、ディーラー側にもメリットがあります。ディーラーにとって試乗業務は負担が大きく、100人が試乗しても実際に購入につながるのは6〜7人ほどです。当社が試乗を担うことで、ディーラーは試乗対応の負担やリスクを減らし、販売につながるお客様への営業に集中できます。

 

さらに、当社は単にサービスを利用されたお客様に対してディーラーへの訪問を促進する事だけに価値を置いていません。お客様が購入を決めた段階で、車種やグレード、オプションまで親身に相談に乗り、ある程度購入条件を固めたうえで提携ディーラーへ引き継ぎます。

 

そのため、ディーラーには購入意欲の高いお客様が届き、商談の負担も大きく減らせます。実際に、あるディーラーからは「1人の営業スタッフをショッピングモールに配置しているのと同じ」と評価していただいています。

 

ターゲットは、「営業を受けず、自分で比較して判断したい」と考える、すでに車を所有している層です。都心では車の需要が低く、逆に遠郊では1人1台の利用が多く、ディーラーとの関係も強い。そのため、その中間に位置する、一家に1台の車を持ち、ディーラーとの接点が薄い層を狙っています。

 

例えば、夫はSUV、妻はスライドドアのミニバンを希望するなど、家族で車の好みが分かれるケースもあります。子どもを連れて何店舗もディーラーを回るのは大変だからこそ、1カ所で複数の車を比較できるCarjanyを利用していただけます。

 

こうしたニーズに合わせ、ラインナップはミニバンやSUVを中心に、価格帯も300万〜650万円程度に絞っています。主な出店先のイオンモールともターゲット層が重なっており、相性の良い場所でサービスを展開できていると考えています。

 

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は東京海上日動火災保険株式会社に勤めており、この事業はもともと社内の新規事業として考えたものです。

 

私は東京海上日動に入社して20年弱、日本・中国などの国内外で一貫して自動車メーカーやディーラーに関わる仕事をしてきました。保険よりも自動車業界の知見のほうが深いと言えます。

 

その中で感じていたのが、自動車業界では買い手よりも売り手の力が強いということです。商談でも、店舗や担当者、時期によって値引き額が大きく変わるなど、価格が不透明な面があります。こうした構造を第三者の立場から変え、売り手と買い手がフラットになる仕組みをつくりたいと考えました。 

 

もともと起業志向が強かったわけではありません。転機になったのは、中国に7年ほど駐在した経験と、帰国後にオープンイノベーションの仕事に携わったことです。中国では電子決済やフードデリバリー、シェアリングサービスなどが急速に普及し、新しいサービスが生活を変えることを実感しました。

 

また、スタートアップ経営者と話す中で、「自分が稼ぎたい」ではなく「社会の課題を解決したい」という姿勢に刺激を受け、自分も挑戦したいと思うようになりました。

 

そこで活用したのが、経済産業省の支援制度である「出向起業」です。会社員としての身分を維持しながら自分で会社を設立し、外部の投資家から出資を受け、東京海上日動のネットワークやリソースを活用して事業を展開しています。

 

このリソースが当社の大きな強みです。現在、関東・関西エリアの40カ所のショッピングモールに出店できているのも、東京海上日動として長年築いてきた信頼があるからです。ディーラーから車を借りられるのも同じで、1台数百万円の試乗車を預けるリスクに対して、事故や故障などのリスクマネジメントを保険会社として培ってきた知見を生かせます。

 

つまり、「大企業が持つネットワーク」と「リスクマネジメントの知見」の2つが、当社のビジネスモデルを支えています。

 

日本には、大企業の中にありながら十分に活用されていないリソースが数多くあります。出向起業という仕組みを通じて、そうしたリソースを新しい事業につなげることで、社会にもっとイノベーションを生み出せると考えています。

 

全員をWin-Winにする、ステークホルダーの相手視点

仕事におけるこだわりを教えてください

私が最も大事にしているのは「相手視点」です。当社にはエンドユーザーと、自動車メーカー、ディーラーやショッピングモールといったパートナーがいます。どちらか一方に寄りすぎるのではなく、すべての関係者がWin-Winになるモデルをつくることを意識しています。

 

「この施策は相手にどう影響するか」「この言葉を使ったらどう感じるか」と、常に相手の立場に立って考えるようにしています。この考え方は起業前から持っていました。損害保険会社も、お客様とエージェントの双方が関わるビジネスだからです。

 

ただ、すべてを完全にフラットにするのではなく、当社ではエンドユーザーを「お客様」、メーカー、ディーラーやショッピングモールを「パートナー」と明確に呼び分けています。金額の大きさだけを見ればパートナー側が重要に見えますが、お客様を起点にしなければ、結果的にビジネスは成り立ちません。それぞれの立場やニーズを理解し、両者をつなげることが重要だと考えています。

 

組織づくりでは、「何のためにこの事業をやっているのか」というミッションを大切にしています。社員が50名規模になると、目的が共有されていなければ組織はばらばらになってしまいます。だからこそ、明確な理念を掲げ、それを日々の行動に落とし込むことを重視しています。

 

また、経営者を経験したことで、大企業のさまざまな仕組みや判断の背景も理解できるようになりました。以前は疑問に感じていた制度や指示にも、それぞれ理由があることが分かりました。大企業の中で経営マインドを持つ人材を増やすためにも、このような出向起業のモデルをもっと広げるべきだと考えています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

最も難しかったのは、組織を大きくしていくことです。

 

一般的にはマネタイズの難しさを挙げる方が多いかもしれませんが、当社はマネタイズが非常にスムーズでした。特定のエリアで一定程度ビジネスが成り立つところまでは早く到達できたのです。難しかったのは、そこからエリアを広げていく局面でした。

 

10人ほどの組織であれば、私と志のある仲間だけで進められますが、20か所、40か所と拠点が増えると、私が直接関与できるメンバーだけでは回らなくなります。同じクオリティで、同じマインドを持って、私が考えているのとまったく同じことを実行してくれるメンバーを各地に増やしていくという状況をつくるまでが本当に大変でしたし、今も試行錯誤しています。

 

ビジネスを0から立ち上げる部分は東京海上日動のリソースと信頼関係で一気に進められますが、広げる部分は内製化が欠かせません。人を採用して育て、ある場所ではできるが別の場所ではできないといった差をどう埋めるか。ここに当社ならではの難しさがあります。

やり続ければ必ず届く、ゴールから逆算した確信

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

進み続けるモチベーションの核にあるのは、小さく始めたときにエンドユーザーもディーラーも喜んでくれた経験です。同じことをやり続ければ必ず目指す世界にたどり着ける自信があります。

 

進めなくなる理由は、時間がなくなること、資金がなくなること、そして熱意がなくなることの3つだと考えています。このどれかが尽きた瞬間に終わってしまいますが、絶やさず持ち続ければ、成功へ着実に近づいていけるはずです。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください

やりたいことは大きく2つあります。

 

1つ目は、変化する自動車販売業界との相性を活かすことです。テスラのようにオンラインで車を購入する流れは、今後さらに広がるでしょう。ただ、初めて車を買う人が、実物を見ずにいきなりオンラインで購入するのはハードルがあります。そこで、まずショッピングモールで実車を見て試乗し、納得したうえでオンライン購入につなげる。当社がその最初の接点となることで、新しい購入体験をつくれます。

 

すでにオンライン販売を主軸とする自動車メーカーとの協業も進んでおり、試乗からオンライン購入、さらにショッピングモールでの納車までを一貫してサポートする取り組みを始めています。ディーラーに行かず、身近な場所で車を選び、購入し、受け取る。これが「スマートなクルマ選び」の一つの形だと考えています。

 

2つ目は、第2弾、第3弾となるサービスをつくることです。自動車業界には、メーカーの壁を越えて比較できる情報が少ないなど、売り手と買い手の間にまだ多くのギャップがあります。

 

当社には、実際に試乗したお客様のリアルな声が蓄積されていきます。それをエンドユーザーには比較・検討のための情報として、ディーラーには営業支援ツールとして提供したいと考えています。例えば、お客様の年齢や家族構成、希望する車などを入力すると、AIが最適な提案をしてくれるような仕組みです。

 

大切なのは、買い手だけ、売り手だけを変えるのではなく、双方に価値を提供することです。第三者である当社だからこそ集められるデータを活用し、売り手と買い手の双方がより良い判断をできる環境をつくることで、業界の構造そのものをアップデートしていきたいと考えています。

何が来ても怖くない、火を消さず軸を持ち続ける

起業しようとしている方へアドバイスをお願いします

一番大切なのは、やり続ける「火」を消さないことです。誰に何を言われても「自分はこれをやる」と言える、確固たる軸を持ち続けることだと思います。

 

起業すると、毎日のように新しい課題が押し寄せます。心が折れそうになる瞬間も何度もありますが、そこで諦めたら終わりです。だからこそ、「なぜ自分がこれをやるのか」「なぜ自分でなければできないのか」という問いを持ち続けることが大切です。

 

私自身、失敗は失敗ではなく、次の打ち手を見つけるための材料だと考えています。社内でもよく話しますが、まず5つ試して4つ失敗し、1つに可能性があれば、そこからさらに可能性のある5つを試してみる。そうやって繰り返していけば、選択肢が少しずつ絞られ、やがて進むべき道が見えてきます。

 

このプロセスを続けるには、諦めないための「軸」が欠かせません。軸があれば、失敗を重ねても「まだやれる」と前を向けます。どんな壁にぶつかっても、試して、学んで、また挑戦する。その繰り返しを続けていけば、必ず道は開けていくはずです。

本日は貴重なお話ありがとうございました。

起業家データ:渡邊 裕太 氏

東京海上日動火災保険株式会社に在籍し、日本・中国などで一貫して自動車メーカー・自動車ディーラーに関わる業務を経験。中国駐在で新サービスが社会を変える力を実感し、帰国後は国内外のスタートアップとのオープンイノベーション業務に従事。
自動車販売業界に感じてきた「売り手主導」の構造への違和感と、第三者として複数メーカーを横断的に比較体験できる仕組みの必要性を確信し、経済産業省の支援制度である出向起業を活用して2024年2月に株式会社Carjanyを設立。東京海上日動、ライフデザインファンド(イオンモールCVC)、ゼロワンブースターキャピタル等から出資を受け、事業を展開している。

企業情報

法人名

株式会社Carjany

HP

https://carjany.jp/

設立

2024年2月

所在地

東京都千代田区大手町1-5-1 大手町ファーストスクエア イーストタワー4階(東京メトロ東西線・丸ノ内線・千代田線・半蔵門線 大手町駅直結)

事業内容

  • 新車乗り比べサービス「Carjany(カージャニー)」:複数メーカーの新型車を最大7日間・セールス同乗なしで乗り比べできるサービス。関東・関西のイオンモールを中心に展開中
  • ディーラー検索・訪問予約サービス「Carjany shop search」:安心・信頼できるディーラーを検索・予約できるサービス
  • 購入アドバイザーによる第三者的な立場でのクルマ選びコンサルティング

 

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