シスタ株式会社 代表取締役 梅谷 雄紀

シスタ株式会社は、AIを活用して介護施設の売上向上と現場負担の軽減を支援する「みちケア」を展開しています。代表取締役の梅谷雄紀氏は、過去の起業・上場経験を経て、次は社会にとって「なくてはならないもの」をつくりたいと考え、介護業界に挑戦しました。今回は、介護現場の課題をどう捉え、AIでどのように変えていくのか、そしてその先に描くシニアマーケットや海外展開について伺いました。

介護施設の売上を上げるAIで、本質的なケアに向き合う時間を

事業の内容をお聞かせください

当社は、介護施設の売上向上を支援するサービスを展開しており、その中心となるのが介護施設向けAIプラットフォーム「みちケア」です。

 

「みちケア」は、介護施設の売上を上げるために必要なツールを一つひとつ展開しているプラットフォームです。現在はシフト作成や業務の割り当て、勤怠管理、経営ダッシュボードなどを提供しています。

 

介護業界のシフト作成は、単に職員の勤務時間を組み合わせればよいわけではありません。介護を受ける方にはそれぞれケアプランがあり、何曜日の何時に、どのようなケアを、月に何回提供するのかが決められています。

 

その実施回数が介護保険上の点数、つまり施設の売上にもつながるため、必要なケアを確実に提供しながら、職員の勤務や休みも調整しなければなりません。

 

既存のシフト管理ツールはありますが、介護業界に特化し、さらに施設の売上向上まで見据えて設計されたものはほとんどありません。「みちケア」は、こうした介護特有の条件を踏まえてシフトや業務を最適化できる点に特徴があります。

 

シフト作成には、業界平均で月30時間ほどかかるといわれていますが、「みちケア」を活用することで、その時間を約9割削減できます。これまで、その多くは残業や、上司に申請されないまま行われるいわゆるシャドーワークとして対応されていました。

 

導入いただいた現場で大きいのは、時間の削減だけではなく、心理的な負担の軽減です。多くの施設では現在もExcelでシフトを作成しており、誰が作ったのかが分かるため、希望休や希望勤務が通らなかった際に、作成者との人間関係に影響が出ることもあります。

 

シフト作成は役職者が担うケースも多く、「この業務をやりたくないから出世したくない」という声が出るほど、負担の大きい仕事になっています。

 

こうした業務をAIに任せることで、シフトを作る側も働く側も、余計なストレスを抱えにくくなります。

 

介護職の方々は、高齢者のケアに向き合うために資格を取得し、この仕事を選んでいます。だからこそ、事務作業を減らし、本来向き合うべきケアに時間を使える環境をつくることが、みちケアの大きな価値だと考えています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

起業を意識し始めたのは大学時代です。名古屋から大学進学で上京した際、学生起業の走りのような活動をしている方々と出会いました。何でもありの格闘技をしているような世界で、皆が捨て身で戦い続ける姿に大きな可能性を感じたのです。

 

その後は一度仲間全員が会社員になりましたが、2014年に再会してスマホアプリの会社を立ち上げ、2018年に当時の東証マザーズへ上場、2020年には東証一部へ市場変更しました。非常にありがたい経験でしたが、短期間に凝縮して走ってきた分、事業を通じて世の中に何を提供したいかといったことに向き合う時間は十分に取れていませんでした。

 

そこで次は、長く続けられる企業をつくりたいと考え、新たなチャレンジに踏み出しました。

 

スマートフォンアプリは、可処分時間を奪い合う世界で、いわば「あったらいいもの」です。だからこそ次は、社会にとって「なくてはならないもの」をつくりたいと考え、社会課題をテーマに据えました。その中で注目したのが、介護業界です。

 

ITと人を組み合わせることで、大きな可能性を引き出せる産業はどこかと考えた結果、介護にたどり着きました。

 

介護業界は、法律で運営上のルールが厳しく定められています。正解があり、ルールが決まっている領域は、現代においてAIが最も活躍しやすい領域です。適切な情報と指示を与えることで、人が一つひとつ判断するよりも、正確かつ効率的に処理できる部分が多くあります。

 

その一例が、「加算」と呼ばれる介護報酬上のインセンティブ制度です。制度の内容が非常に複雑で、施設の運営者は膨大なルールの中から、自社がどの加算に該当するのかを確認しながら申請しなければなりません。

 

手間や時間がかかるため、取得できる可能性があっても申請を諦めてしまうケースがあります。

 

一方で、国の制度は、こうした加算を適切に取得しなければ収益を伸ばしにくい方向へ変化しています。

 

だからこそ、この複雑な業務をAIで支援できれば、施設の負担を減らしながら経営改善にもつなげられる。まさに、人とITを組み合わせることで価値を生み出せる領域だと考えました。

 

人手不足と聞くと、人材ビジネスによる解決を考えがちですが、介護業界にはすでに多くの人材サービスが存在します。

 

それでも、人手不足という課題は解消されていません。底のないバケツに水を注ぎ続けても水はたまらないのと同じで、まずは施設の収益性を高め、持続的に経営できる仕組みをつくる必要があると考えました。

 

医療・介護の現場では赤字経営の施設も多く、経営の立て直し自体が大きな社会課題です。そこで私たちは、人材を増やすことよりも、施設の売上向上を支援することから事業をスタートしました。

結果を出すまでやめない。立ち続けることが勝つための条件

仕事におけるこだわりを教えてください。

こだわりは、結果を出すまでやめないことです。

 

大学時代から起業を意識していましたが、自分に特別な才能があるとは感じていませんでした。もし何か突出したものがあれば、それを軸にしていたと思います。

 

ただ、私にはそうしたものがなかったからこそ、「最後まで立ち続けていれば負けない」とシンプルに考えるようになりました。

 

その考え方は今も変わっていません。どうすれば立ち続けられるのか、どうすれば走り続けられるのかを常に考えながら事業に取り組んでいます。

 

ただ、この価値観を社員に言葉で伝えることは、あえてしていません。代表である自分自身が走り続け、その姿を見せることでしか伝えられないものだと考えているからです。常に誰よりも先を走り、自分が一番その姿勢を体現することを心がけています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

正直に言うと、これが最大の壁だと一言で挙げるのは難しいです。壁を越えるとまた次の壁があり、ステージが変わるとまた違う景色を見たくなります。日本の中だけでなく世界に目を向ければ、さらに上の環境があります。

 

そう考えると常に壁があるような感覚です。

 

シスタは40歳で起業した会社で、初めての起業ではありません。マーケット選びやその中でどう戦うかについて、戦う前の段階から自分たちの可能性を高めてきました。

 

もちろん、日々の中では小さな問題や想定外の出来事は起こりますが、現時点では「これを乗り越えるのが本当に大変だった」と言えるほどの大きな壁にはまだ直面しておらず、会社としては比較的順調に進んでいると感じています。

 

そもそも、事業は最初から思い通りに進むものではないと思っています。問題が起きること自体を特別なことだと捉えていないので、何かあればその都度向き合い、乗り越えていく。その繰り返しだと考えています。

ゴールのないマラソンを走り続ける

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

進み続けるためのモチベーションについては、正直あまり考えたことがありません。

 

今回の起業では、自分たちが実現したい未来をかなり先に置いています。大きな絵を描き、自分たちの想像を超える未来に向かい続けると決めているので、そのこと自体が原動力になっているのだと思います。

 

そもそも今回は、社会課題を解決するために会社を立ち上げました。社会課題は簡単に解決できるものではありませんし、国内だけでなく世界に目を向ければ、取り組むべき課題はいくらでもあります。

 

いわば、ゴールのないマラソンを走ると決めてスタートしているような感覚です。だからこそ、その都度モチベーションを上げようと意識することもありません。

 

これは、2度目の起業だからこそ持てる感覚だと思います。最初の起業では先の未来を想像する余裕もなく、常に「明日の売上をどうつくるか」を考えていました。今は一度経験したことで、「そう簡単には死なない」と思えるようになり、以前とは心持ちが大きく変わりました。

 

社員に対しても、モチベーションを維持するための特別な働きかけはしていません。私個人についてきてもらうというより、会社が目指している未来や、この事業が生み出そうとしている価値に共感して集まってくれているメンバーが多いからです。

 

そのため、自ら考えて動ける人が多く、会社が一人ひとりのモチベーションを管理する必要性はあまり感じていません。人材に求めるのも、何かを続けること、そして環境に合わせて変化し続けることです。そうした姿勢を持つ人たちと、長く走り続けていきたいと考えています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

今後は、介護業界にとどまらず、日本のシニアマーケット全体へ事業を広げていきたいと考えています。

 

もともと私は、「日本のビジネスをどうすれば海外で強いビジネスにできるのか」ということをずっと考えてきました。日本発で海外に広く根付いているものを見ると、飲食やアニメなどのIPはありますが、それ以外の産業ではまだ大きな余地があると感じています。

 

だからこそ、まずは日本国内でシニアマーケットを広く支えられる存在になることを目指しています。現在取り組んでいる介護領域は、そのための第一歩です。

 

「みちケア」についても、今後さらに機能を広げていく予定です。「みちケア」は一つの機能を指すサービスではなく、シフト作成や勤怠管理、各種計画、経営ダッシュボードなど、介護施設の売上を高めるために必要な機能をまとめたブランドです。

 

施設経営に必要なものがあれば、今後もプロダクトとして追加していきます。

 

同時に、自社のサービスだけですべてを完結させるつもりもありません。介護・医療業界では、従来オンプレミス型のシステムが多く、サービス同士が連携する文化が十分に育ってきませんでした。

 

一方、IT業界では、複数のクラウドサービスがつながり、一連の業務を効率化することが当たり前になっています。

 

私たちも、介護施設の業務を一つひとつ切り分けるのではなく、「計画を立ててから売上につながるまでの一連の流れ」として捉えています。

 

その中で、自社で提供した方がよいものは自社でつくり、他社のサービスを活用した方がよいものは積極的につないでいく。その方が、施設の売上向上という本来の目的に近づけると考えています。

 

今後はこうした連携先も増やしながら、介護施設の経営を支える基盤をつくり、将来的には日本で培ったモデルを海外にも展開していきたいと考えています。

早く打席に立つほど、助けてくれる人も増える

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業したいという思いがあるなら、できるだけ早く始めた方がいいと思います。必ずしも大学を卒業してからである必要はありません。在学中でもできることはありますし、やりたいのであれば、まず動いてみることが大切です。

 

もちろん、一度企業に入って経験を積むことが合っている人もいます。私自身は、自分に何か特別なものがあるとは思っていなかったので、まずは視野を広げたいと考えました。

 

大きな組織に入れば、すでに出来上がった仕組みを見ることができますし、それがなぜ存在しているのか、どのような経緯でつくられたのかを学ぶこともできます。私には、そうした経験が合っていました。

 

ただ、起業前に必ず身につけておくべき知識があるかというと、あまりないと思っています。いくら勉強しても、実際にやってみなければ分からないことの方が多いからです。

 

スポーツでも、ルールを覚えたりイメージトレーニングをしたりするだけでは上達しません。実際に打席に立ってバットを振ったり、ボールを蹴ったりする中で初めて分かることがあります。起業も同じで、できるだけ早く多くの打席に立つことが大切です。

 

早く始めることには、もう一つ意味があります。失敗したとしても、若いうちは助けてくれる人や、応援してくれる人に出会える可能性が高いと思うからです。もちろん、ただ始めればいいわけではありません。

 

目的を持って真剣に取り組んでいれば、その先で新しい人やコミュニティと出会い、そこからまた次の機会が生まれることがあります。何か実現したい思いがあるのであれば、一歩でも早く踏み出した方が、その可能性は高まると思います。

採用を強化されているそうですね。どのような人材が理想でしょうか?

全方位的に人材を求めていますが、特に求めているのは営業寄りの立場で事業を推進してくれる方です。

 

価値観はさまざまでよいと思っていますが、変化を恐れず、その変化に順応しながらやり続けられる方が理想です。スタートアップは芽が出るまでに一定の時間がかかりますし、その過程では大変なことも多くあります。

 

ただ、その時期を乗り越える、あるいは自分たちで乗り越えるきっかけをつくることができれば、その先には大きな可能性が広がっています。

 

まだ名前が知られていない段階だからこそ、自分たちで汗をかかなければならないことも多くあります。そうした環境を理解した上で、乗り越えることを諦めずに取り組める方と働きたいと考えています。

 

また、2年前の創業当時と現在では、AIのクオリティも大きく変わりました。こうした技術を活用するかどうかによって、一人ひとりが発揮できる可能性も大きく変わってくると考えています。

 

以前は複数人で生み出していた成果を、今ではより少ない人数で生み出せる可能性があります。それくらい、今と昔では事業の戦い方そのものが変わっています。

 

だからこそ、新しい戦い方を理解し、AIをはじめとした技術を活用しながら、人の可能性をさらに高めることにチャレンジできる方と働きたいですね。当社は、そうした挑戦がしやすい環境だと考えています。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

起業家データ:梅谷 雄紀 氏

大学卒業後、大手総合人材サービス企業に入社。不動産投資会社にて投資・人事責任者を経験し、人材紹介・採用コンサルティング会社を創業。2014年スマホアプリ会社の設立に参画し、戦略子会社代表取締役、HR・広報管掌役員として、創業4年で東証マザーズ(現グロース市場)上場、5年半で東証一部(現プライム市場)への鞍替えを牽引。2020年以降、Jリーグチームの経営アドバイザーやSMBマーケットにおいて様々な業態のM&A・ロールアップ〜EXITまでを短期間で実現。2024年当社創業。

企業情報

法人名

シスタ株式会社

HP

https://sisuta.co.jp/

設立

2024年9月24日

事業内容

  • 介護業界向けAIソリューション「みちケア」プラットフォームの開発・提供
  • 介護施設運営

 

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