
AironWorks株式会社はAIを活用した企業の人的セキュリティ強化に特化したサイバーセキュリティサービスを展開し、巧妙化するフィッシングメールなどの脅威から組織を守る仕組みづくりに取り組んでいます。単にシステムを強固にするだけでなく、独自の最先端技術を通じて働く人々のリテラシーを高め、企業の根本的なレジリエンス向上を実現している点が特徴です。今回は、代表取締役CEOの寺田 彼日氏に、サービスの内容や起業の経緯、そして今後の展望についてお話を伺いました。
当社は、AIを活用して企業のサイバーセキュリティ強化とレジリエンス向上を実現するプロダクトを提供しています。
現在の主力サービスは2つあります。1つは、従業員向けのセキュリティ教育・訓練プラットフォームです。もう1つは、フィッシングメールなどのサイバー攻撃を防ぐための防御ツールです。さらに現在は、災害時の安否確認や事業継続計画(BCP)の運用をAIで支援するサービスも開発しており、企業のレジリエンス向上というテーマで事業を広げています。
私たちがシステムではなく「人」を対象にしたセキュリティ対策に注力しているのには、近年サイバー攻撃の手口が大きく変化しているという理由があります。以前のフィッシングメールは、不自然な日本語や文法の誤りが多く、比較的見分けやすいものでしたが、生成AIの普及によって攻撃者もAIを活用するようになり、現在では文面だけで見抜くことが難しいレベルにまで高度化しています。
一方で、企業のシステムは年々強化されているものの、人のセキュリティ意識や知識は急激には変わりません。そのため、攻撃者はシステムよりも人を狙うようになっており、実際に大手企業でも被害が相次いでいます。
こうした課題に対し、当社のプロダクトはAIが訓練コンテンツを自動生成・配信する仕組みを採用しています。従来のセキュリティ教育と比べて運用負荷を大幅に削減しながら、従業員のセキュリティリテラシー向上を実現できる点を評価いただいています。現在は国内の大手企業を中心に、金融・製造・小売・インフラなど幅広い業界へ提供しています。
また、このプロダクトを支えているのが、テルアビブに研究開発拠点を持つ開発チームです。東京オフィスにも複数の外国人エンジニアが在籍しており、世界トップレベルのサイバーセキュリティ技術や知見を活かしながら、サービス開発を進めています。
開発チームは全員外国人で、東京オフィスにもイスラエル人エンジニアが在籍しています。紛争や安全保障の問題と常に向き合う環境では、セキュリティ技術が国家レベルで発展します。そこで培われた技術と人材が、弊社の根幹を支えています。

現在の会社は、私にとって2社目の起業です。もともとは1社目として立ち上げたAniwoという会社があり、そこからスピンオフする形で創業しました。
そもそも私は世界で勝てるソフトウェア領域の会社を立ち上げようと考えて、イスラエルへ渡ることを決めました。これには明確な理由があります。
前職でシリコンバレーを訪れる機会がありましたが、そのエコシステムは非常にクローズドで日本人がぱっと行って勝負できるイメージが湧きませんでした。一方で、他の世界有数のスタートアップエコシステムについて調査していたときに、学生時代に読んだ『Start-up Nation』という本を思い出しました。
改めて詳しく調べてみると、世界的なテクノロジー企業や起業家の中に、ユダヤ人やイスラエル人が圧倒的に多いことに気づきました。「グローバルで勝つためには、日本人が誰もチャレンジしていないこの世界最高レベルのエコシステムに身を置くべきだ」という判断に至り、知人も伝手もない状態でしたが片道切符でイスラエルへ渡りました。
イスラエルにて友人の紹介で出会ったのが現在のCTOです。彼はイスラエル国防軍のインテリジェンス部隊 Unit 8200出身のホワイトハッカーという非常に優秀な人材でした。友人として交流を続けていましたが、すぐに共に事業を始めたわけではありませんでした。実際に私たちが「今こそ事業を立ち上げるべきだ」と動いたのが2020年です。
コロナ禍によってリモートワークが急速に普及し、サイバー攻撃の対象がシステムから人へ移るという決定的な構造変化が起きたからです。さらにいずれ攻撃手法そのものもAI化していくという強い確信があったため、このタイミングを逃さずに彼とプロダクト開発へ踏み切りました。その後、2022年末に生成AIが登場したことで、私たちが繋いできた縁と先見の明が証明され、現在の事業が一気に加速しました。
私が大切にしているのは、グローバルで勝てる製品と会社をつくることです。その実現につながらないことはやりません。加えて、人生を懸ける価値のある、社会的な意義を感じられるテーマを選ぶことを意識しています。
その原点にあるのは、学生時代のトルコ留学です。海外で生活する中で、以前よりも日本の存在感が薄くなっていることを強く感じました。
実際、アメリカやイスラエルで「日本のスタートアップを知っていますか」と聞いても、名前が挙がる企業は全くありませんでした。唯一名前が挙がるソフトバンクは、「投資会社ですよね」という認識で、プロダクトをつくっているスタートアップとして認識されている会社は皆無です。
日本の人口は減り続け、スタートアップによるイノベーションも停滞している中で、このままだと国家としての存続すら危ういという危機感を持ちました。スポーツに例えると、野茂 英雄さんがメジャーリーグで活躍したからこそ、その後にイチローさん、大谷 翔平さんのような選手が続いたのだと思います。
ここ30年で日本人起業家で世界的に成功したロールモデルがまだ少ないのであれば、自分がその一人になりたいです。そして、その姿を見て次の挑戦者が生まれるような流れをつくりたいという思いが、個人的に事業に取り組む大きな原動力になっています。
正直なところ、私は常に前を向いているタイプなので、「大変だったこと」をあまり覚えていません。それでも振り返ってみると、最も時間がかかり、かつ重要なターニングポイントになったのは共同創業者であるCTOとの出会いだったと思います。
スタートアップにおいて、経営レベルで同じ志を持ち、ビジネスと技術の両面で支え合える共同創業者の存在は非常に重要です。ただ、それは狙って見つけられるものでもなければ、再現性のあるものでもありません。
私の場合、2014年にイスラエルへ渡った後に現在のCTOと出会い、一緒に会社を立ち上げるまでには6年という歳月がかかりました。
この間の一番の壁は、何かを乗り越えるというよりも、準備を続けながら、事業として一緒に動けるタイミングが重なるのを待ち続けることだったと思います。ビジネスのタイミングが合うまでの6年間、関係を途切れさせずに縁を繋ぎ続けることには、起業家としての粘り強さが必要でした。そして、その準備と継続の結果としてタイミングが重なったときに動けたことが、今のAironWorksにつながっています。
この経験は、大きな転機であると同時に、起業家として乗り越えるべき壁の一つだったと思います。

モチベーションというものは、あまり強く意識していないかもしれません。日本人として世界で勝てる製品や会社を作ると決めているので、あとはそれをやるだけ、という感覚です。
そのため行動の原動力も日々の気分やモチベーションというよりは、「自分は何のためにこれをやっているのか」という目的意識にあります。そこにあるのは、お金や名声への欲ではなく、自分の取り組みによって日本や社会が少しでも良い方向に変わるのであれば、それで満足だという気持ちです。
会社を経営していると良いことも悪いことも必ずあります。会社経営を始めてから2年ほどして、日々起こる事象に一喜一憂していると精神が持たないと痛感しました。それ以来、なるべく感情の起伏をなくすよう意識しています。何があっても喜びすぎず、悲しみすぎず、淡々とやり続けることが燃え尽きないために重要だと思っています。
個人的な目標としては、5〜10年後にアントレプレナーシップを教えるプログラムを作りたいと思っています。現在も大学や高校で講義させていただく機会がありますが、自分で設計した教育の場を作ることが将来の夢です。
AI時代に入って、物事が進むスピードが劇的に変わっています。世界では、日本で最も時価総額が高い会社の3倍以上の企業が5〜6年でできているという事実をもっと真剣に見ていく必要があると感じています。そういった機会をどう捉えてグローバルで戦うかに挑戦し続けていきたいと思っています。
日本の起業家エコシステムに対して強く伝えたいのが、M&Aエグジットの重要性です。イスラエルやアメリカではエグジットの9割がM&Aです。会社を作って売るサイクルで起業家が循環し、その経験とキャッシュが次の事業に流れていきます。日本ではM&Aを身売りと呼ぶような文化がありますが、本来は起業家にとってポジティブなことです。
上場しても利益創出や成長を維持できなければ株価が上がらず、生活のために会社を辞められない状況に陥ることもあり、会社が成長しにくくなる構造があります。どんどん始めて、うまくいったら売って、また次を作るという循環が日本に生まれれば、グローバルで戦える会社が出てくると信じています。

準備を完璧にしようとするといつまでも始められないので、やりたいと思ったときがタイミングだと思っています。ただ現実的な準備として2点お伝えしたいことがあります。
1つは金銭的な備えです。最初の1〜2年は役員報酬を取れないことも多いので、事前に生活費を確保しておくことをお勧めします。もう1つが、会社員のうちにクレジットカードをできるだけ多く作っておくことです。出資の着金前にキャッシュが厳しくなる場面は必ずあります。
銀行融資などは審査に時間がかかりますが、クレジットカードはすぐ活用できます。個人信用があるうちに個人資金の面での備えを作っておくことは、体験から学んだ本当に重要な教訓です。
起業の最大のリスクは体や精神を壊してしまうことです。それさえ避けられれば金銭的なリスクは以前よりずっと小さくなっています。海外で起業することも、行ってしまえばなんとかなります。やりたいならぜひチャレンジしてほしいと思いますし、会社を作って売ってまた次を作るというサイクルをポジティブに捉えてもらえると、日本のスタートアップシーンが変わっていくと思います。
大阪大学経済学部卒業後、京都大学大学院在学中にSloganの京都支社の立ち上げに従事
トルコKoç Universityへ研究者派遣留学を経て、Benesse Corporationにてデジタルマーケティング及び社内新規事業を担当
2014年 イスラエルへ渡りAniwo Ltd. を創業。日本・イスラエル間のオープンイノベーション推進、イノベーション人材の育成・採用サービスを運営
2021年 AironWorks株式会社を創業
京都大学経営管理大学院修了(MBA)
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法人名 |
AironWorks株式会社 |
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HP |
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設立 |
2021年8月 |
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事業内容 |
「AiR: AI for Resilience」プラットフォームを提供し、企業と社会のレジリエンスを高める。
AiR Cyber — サイバーセキュリティ
AiR Commander — 危機管理
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