株式会社ex Labs  代表取締役  飯田雄貴氏

株式会社ex Labsは、謎解きやマーダーミステリー、イマーシブといった体験型エンターテインメントを企画・制作し、商業施設などでイベントとして運営する会社です。施設側の初期費用を原則無料にしてコンテンツを制作し、集客から運営、収益化まで一貫して担う成果報酬型のモデルが特長です。今回は、代表取締役である飯田雄貴氏に、施設の回遊率を高めるイベントの仕組みや、AI時代に体験型エンタメが持つ可能性について伺いました。

初期費用0円で施設に体験型エンタメを届ける

事業の内容をお聞かせください

当社は、謎解きやマーダーミステリー、イマーシブと呼ばれる体験型エンターテインメントを企画・制作している会社です。事業は大きく4つの軸で成り立っています。

 

1つ目は、自社で体験型コンテンツを企画・制作する事業です。謎解きはあくまで分かりやすく伝わる呼び方で、推理小説の中に自分で入り込んだかのように体験できるマーダーミステリーや、空間そのものに没入するイマーシブなどを組み合わせ、一つの企画としてコンテンツを作っています。 

 

2つ目は、法人向けにコンテンツを制作し、施設で実施していただく事業です。直近では東急不動産株式会社に御協力いただき、渋谷サクラステージでイベントを実施しました。日本経済新聞にも取り上げていただきましたが、このように場所を持つ企業様やIPを持つ企業様と組み、コンテンツを展開しています。

 

当社のビジネスモデルで特徴的なのは、施設の初期費用を基本的に無料にしている点です。例えばショッピングモールでは、上のフロアに行くほどお客様が回遊しにくく、滞留率が下がるため、賃料も上がりにくいという課題があります。そこで、踊り場や邪魔にならない区画をお借りし、役者を配置してミステリー系のイベントを展開します。

 

すると、お客様がイベントを楽しみながら、自然と上のフロアまで回遊してくださいます。これは施設側にとって、上のフロアでも高い賃料を取れる可能性につながる明確なメリットがあります。一方、当社としても場所代をほぼかけずにイベントを実施できます。

 

面白いコンテンツを作ることができれば、1回のイベントに1,000人から2,000人ほどのお客様に来ていただき、1人あたり4,000円ほどのチケット単価で売上と利益を出せる構造です。場合によっては、当社から施設側に出店料をお支払いすることもあります。

 

他社の場合は受託制作が中心で、1つのイベントを作るために数百万円から数千万円を請求するケースも少なくありません。当社の場合は、自分たちで集客までできなければそもそも利益が出ないため、「うちが赤字になるので、気合いでやります」とお伝えしたうえで受け入れていただいています。創業からまだ8か月ほどですが、大きな企業様とも話を進めやすいのは、こうしたビジネスモデルにも理由があると感じています。

 

3つ目は、企業様への知見提供と研修です。「こういう企画を自社でやりたい」といったクリエイティブ面の相談に応じたり、謎解きを通じて通常とは違うコミュニケーションが生まれるよう設計した研修を提供したりしています。

 

机に座って受ける研修は、正直なところあまり面白くありませんし、参加者同士のコミュニケーションも無理に生み出す形になりがちです。一方、謎解きは制限時間のある一つのゴールに全員で向き合う「対モノ」のコンテンツなので、参加者が夢中になり、忖度せずに意見を出し合えます。

 

ファシリテーションが得意な人、ひらめきを持ってくる人など、それぞれの特性も見えやすく、そこに研修としての価値を感じていただく会社様があります。採用の場面で活用されたケースもあります。 

 

4つ目は、海外への輸出とインバウンド向けの施策です。現在は日本のコンテンツを海外へ輸出する動きと、逆に海外から来られる方に向けてコンテンツを提供する動きの両方を進めています。

 

メインの軸は、自主企画と法人向け企画です。法人向けといっても実質は自主企画に近く、大きな法人様と組んで実績を重ねるほど、当社内の各団体にファンがついていきます。最終的には広告宣伝費をかけなくても、イベントごとに多くのお客様に来ていただける状態を作れることが強みです。

 

実際、コンテンツのリピーターは非常に多く、口コミによるバイラルでの集客が基本になっています。面白いものを作ることが一番の集客になる点は、当社にとって大きな強みです。 

 

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

もともと私は大学時代より前から会社の経営を少しずつやってきましたが、その原点は趣味にあります。中学生頃から人狼ゲームに親しみ、そこで人との駆け引きや、言葉を使ったコミュニケーションの面白さを学びました。大学1年生のときに初めてマーダーミステリーに触れると、そこから一気にのめり込み、毎日最低1本は必ずプレイするほど熱中したのです。  

 

最初に手がけたのは、東大生によるオンライン家庭教師サービスでした。テニスサークルを引退したタイミングで仲の良かった2人を誘って始めたものであり、半年から1年でM&Aしようと決めて動かし、実際に売却しました。

 

その後、1年半ほどいろいろな場所を巡りながら過ごす中で、もう一度事業をやりたいと思うようになりました。ただ、次にやるなら、単にお金になるものではなく、自分が好きな領域で、面白いことをやりたいと考えていました。  

 

事業のヒントは、普段よく遊ぶ友人からもらいました。私が23歳で、一回り上の30歳前後で大企業に勤める方々とよく遊ぶのですが、「謎解きを会社でやらないのですか」と尋ねると、初期費用を出して実施するのは決済上難しい、過去にやったものの失敗してお蔵入りになった、といった話をいくつも聞きました。

 

それなら初期費用を無料にして面白いものを展開できればいいのではないかと考えたのです。それが、現在の事業を始める最初のきっかけになりました。 

 

人と違うことをして短期的に成果を出すことへの興味は、高校時代の原体験に根ざしています。高校1年生の頃は学年で最下位に近い成績で、先生から「このままだと大学に行けない」と言われました。そこでやればできることを証明したいと思い勉強に取り組んだところ、運もあって東京大学に入ることができました。人とは違うやり方で時間を有効に使いたいという思いは、その頃からずっと持ち続けています。

 

ただ、お金を稼ぐことだけを考えるなら、正直この領域は選ばなかったと思います。体験型エンタメで収益を出すのはかなり難しいからです。それでも成立させられているのは、私自身がこれまで3,000から4,000ほどのコンテンツに触れ、その中で得たノウハウを体系化してきたからだと考えています。

 

密室トリックにしても謎の型にしても、実はほぼ網羅されているものの、それを体系化している人はあまりいません。ここまでコンテンツに触れている人が少ないからこそ、ビジネスとして成り立っているのだと感じています。

 

 

自分のこだわりは消し、クリエイターの天才性を守る

仕事におけるこだわりを教えてください

私自身は、あえて強いこだわりを持たないようにしています。自分のこだわりを持ちすぎると、クリエイターと衝突してしまうからです。当社の仕事はあくまでプロジェクトをマネジメントすることであり、クリエイターが自分の好きなものをつくり、そのこだわりを維持できる環境を整えることが、私たちの役割だと考えています。

 

マネジメントについても、特別なことをしているわけではありません。経済面や契約面を当社がしっかりと整えたうえで、クリエイターには「自由に面白いものをつくってください」と伝えています。私自身もクリエイティブの仕事をしてきた経験があるため、その頃の私を知っているクリエイターも多くいます。クリエイターが何を大切にしているのかを理解しているからこそ、受け入れてもらえているのだと思います。

 

単にお金を払って制作を依頼するだけでは、途中で意見がぶつかることもあります。だからこそ、私たちが間に入り、クリエイターが制作に集中できる環境を整えながら、プロジェクト全体をうまく進めていくことに価値があると考えています。

 

一方で、クリエイターがつくりたいものだけを追求すると、作品が尖りすぎてしまうこともあります。そこはマネジメント側で意識して調整しています。法人向けのプロジェクトであれば、その企業が達成したい目標と照らし合わせる必要がありますし、企業の場所をお借りする以上、コンプライアンスの観点も欠かせません。 

 

クリエイターのこだわりを尊重しながら、プロジェクトとして成立させるバランスを取ることが、私たちのマネジメントの役割だと考えています。 

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

正直なところ、これまでにキツかったと感じることはあまりありません。ただ、先々でキツくなるだろうと思っているのは、事業領域の市場規模がまだ非常に小さいことです。

 

謎解きのコンテンツ自体、テレビで見るものは知っている程度の温度感が実際のところです。

 

そのため、この市場自体を大きくしていくことも当社の目標の一つです。一方で、現時点から年商数十億、数百億円規模まで成長させられるかというと、ハードルは高いとVCの方からも指摘されています。

 

もっとも、市場を当社だけで大きくできるとは考えていません。楽観的に聞こえるかもしれませんが、AIが発達した先には、リアルな体験型エンターテインメントがさらに発展する未来があると考えています。AIによって人間の余剰時間が増える時代は、2〜3年後には訪れると見ています。

 

だからこそ、そのタイミングまでに初期費用無料のモデルで多くの方にサービスを利用してもらい、まずは信頼を積み重ねていきたいと考えています。そして、体験型エンターテインメントへの需要が一気に高まったときに、多くの利用者を獲得し、プロダクトマーケットフィットにつなげていくという考えで事業を進めています。

 

 

クリエイターの未来と、自分が遊べる未来のために

今後やりたいことや展望をお聞かせください

 

今後は、大きな企業と一緒に面白いイベントを一つでも多く実現し、その延長線上で、日本中の人が体験型エンタメに触れられる未来を作っていきたいと考えています。

 

特に構想しているのが、既存の街や施設をそのまま舞台装置として活用し、街全体を体験型エンタメの空間にする取り組みです。自前で大規模な施設を持つのではなく、今ある場所の魅力とコンテンツを掛け合わせることで、新しい価値を生み出せると考えています。

 

街おこしの観点でも、宿泊施設とコンテンツを組み合わせる取り組みも進めています。コンテンツをきっかけに現地を訪れ、その宿や地域の魅力を知っていただく。反対に、宿泊をきっかけに当社のコンテンツにも興味を持っていただく。そうした相互作用を生み出せることが、体験型エンタメの面白さだと思っています。

 

また、インバウンドや海外展開にも力を入れていきたいです。インバウンド事業者と連携し、街を巡る体験の中に当社のコンテンツを組み込んで海外の方に楽しんでいただく構想も進めています。さらに、日本のクリエイターが制作したマーダーミステリーなどのコンテンツを海外へ届ける取り組みも実現していきたいと考えています。

 

根底にあるのは、クリエイターが持つ才能や可能性をもっと世の中に届けたいという思いです。同時に、私自身も昔から人狼などのコンテンツを楽しんできた一人の消費者です。業界が盛り上がり、面白い作品や体験が増えれば、自分自身ももっと遊べるようになる。クリエイターの未来と、面白いコンテンツを誰もが楽しめる未来の両方に向けて、できることを一つずつ積み重ねていきたいと思っています。

好きだからやれる、を大前提に

起業しようとしている方へアドバイスをお願いします

率直に言うと、私は起業をあまりお勧めしません。私自身、毎日遅くまで働いていますし、好きなことだからこそやれていると感じているからです。

 

もしこれが好きではない領域だったら、かなりの重労働になるだろうと思います。お金を稼ぎたい、承認欲求を満たしたいといった動機での起業ほど大変なものはないと、実際にやりながら感じています。私は自分が露出したいとも思っていませんし、ただ面白いコンテンツを1つでも多く遊びたい動機でやっているだけなのです。

 

ですから、単純に稼ぎたいのであれば、大きな企業に入って稼ぐほうが安定もしますし、絶対に良いと思います。何もない日ほど大きな声を出したくなることもありますが、最後は誰の責任にもできず、自分がすべてを背負わなければなりません。そう考えると、難しいゲームだと感じています。それでも、好きだからこそ楽しんで向き合える点が一番大事だと思います。

 

本日は貴重なお話ありがとうございました。

起業家データ:飯田 雄貴 氏

東京大学法学部在学中。大学1年生から起業し、東大生によるオンライン家庭教師サービスを立ち上げ、M&Aで売却。その後、体験型エンターテインメント領域に着目し、2025年11月に株式会社ex Labsを設立。現在は同社と並行してバックオフィス支援会社も経営している。

企業情報

法人名

株式会社ex Labs

HP

https://kabuexlabs.com/

設立

2025年11月

事業内容

  • 自社主催による体験型イベントの企画・運営
  • 法人向け体験型コンテンツの企画・制作
  • 体験型コンテンツを活用した社内研修プログラムの企画・提供
  • 施設活用イベント(商業施設・文化施設・観光施設の空間を活かした周遊型イベントで集客・滞在価値向上を支援)

 

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