株式会社メリー 代表取締役 氏家好野氏、取締役 神馬紗智氏

株式会社メリーは、看護師向けのスポットワーク(単発勤務)サービス「メリー」を提供しています。創業メンバーの神馬氏を中心とした看護師チームが受け入れ先の現場に自ら入り込み、勤務の設計から導入後の伴走まで手厚く支援するのが特長です。今回は、代表取締役の氏家好野氏と取締役の神馬氏に、メンタルヘルス領域から事業を転換した経緯や、地域で医療人材を支え合うメディカルリリーフ構想について伺いました。

看護師チームが現場に入り込む、看護のためのスポットワーク

事業の内容をお聞かせください

氏家氏:当社は、看護師向けのスポットワークサービス「メリー」を提供しています。人手が足りない医療機関や介護施設と、働きたい看護師を即日・即時でマッチングするサービスです。

 

創業メンバーには複数名の看護師がいるため、単に人材を紹介するだけではなく、受け入れ先の現場に入り込み、導入まで手厚くサポートできることが特徴です。

 

スポットワーク自体はすでにいくつかのサービスがありますが、介護や一般職種が中心で、看護師や病院の案件を扱うサービスはまだ多くありません。その背景には、看護師の間にスポットワークへの抵抗感があることや、病院側にも「単発の看護師をどう受け入れればいいのか分からない」という課題があります。

 

そこで当社では、看護師である神馬をはじめとする看護師チームのメンバーが、営業やカスタマーサポートを担い、必要であればまず半日勤務で現場に入ります。夜勤や患者さんの受け持ちは単発勤務では難しいと思われがちですが、「こうすればスポットの看護師でも受け入れられる」という方法を、私たち自身が現場で一緒に働きながら設計していきます。

 

こうして現場に入り込むこと自体が、当社の強みだと考えています。医療現場は指示命令系統がはっきりしているため、看護部のトップが「導入したい」と考えていても、現場が納得していなければスムーズには進みません。だからこそ、看護師である私たちが部署単位で訪問し、実際に一緒に働くことで、現場が受け入れやすい形をつくっています。

 

これまで50か所以上の施設を見てきたことで、「この業務ならお願いできる」「ここはやり方を組み直せる」といった判断もできるようになりました。

 

外部の業者から言われるだけでは納得しにくいことでも、同じ看護師として現場に入り、「この業務は任せることができそうですね」と一緒に業務内容を検討したり、「みなさん患者さんへの声かけが丁寧ですね」と、現場では当たり前になっている良さを言葉にして伝えることで、受け止め方が変わることもあります。

 

求人を掲載して終わりではなく、施設の魅力を求人票に反映し、その後も2週間に1度ほど連絡を取りながら継続的に伴走しています。

 

この事業で解決したいのは、医療機関と看護師の双方が抱える人手不足の問題です。病院では看護師が不足すると、ベッドがあっても必要な人員を確保できず、病床を稼働させられないことがあります。稼働できる病床が減れば医療機関の収益にも影響し、救急患者の受け入れにも影響が及びます。

 

また、人手不足によって一人ひとりの看護師の負担が増えれば、看護師の残業や休憩の取りやすさだけでなく、患者さんのケアの質にも影響する可能性があります。

 

一方、看護師側にも働き続けるうえでの課題があります。看護師は9割が女性で、ライフイベントを機に夜勤や長時間勤務が難しくなる方も少なくありません。

 

それでも病院では、日勤と夜勤の両方を担う常勤勤務が前提となっているケースが多く、看護師として働き続けたいと思っていても、働き方が合わずに現場を離れてしまうことがあります。

 

スポットワークによって働く時間に柔軟性を持たせることで、看護師が資格を活かして働ける選択肢を増やし、同時に医療機関にとっても必要な人材を確保できる環境をつくっていきたいと考えています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

氏家氏:当社は登記上の社歴こそ長いのですが、現在の事業に転換したのは昨年です。

 

もともとはコロナ禍に立ち上げた、看護師向けのメンタルヘルスアプリ「ナースビー」が出発点でした。当時は医療機関が逼迫し、心身の不調を抱えて現場を離れる看護師も多かったため、まずは看護師の心身をケアするサービスとして始めました。

 

その後、医療機関の従業員向けにサービスを広げ、離職防止を目的としたHRテックとして展開していきました。しかし、不調や不満の要因を拾っていくと、残業の多さや長いシフト、人間関係など、さまざまな現場の課題が複合的に絡んでいることが分かってきました。

 

そこで改善策を提案しても、現場にはそもそも人手が足りず、余裕がありません。「アプリより人をください」という声のほうが大きかったのです。そこで昨年、事業を転換しました。

 

私自身はもともと営業職で、医療やメンタルヘルスとは縁のない仕事をしていました。転機になったのは、私自身がコロナ禍でメンタル不調になったことです。

 

そのとき、メンタルカウンセラーをしていた看護師の友人に相談したことをきっかけに、看護師が置かれている厳しい状況を知りました。彼女の活動を手伝う中で、多くの看護師や病院と話す機会が生まれ、医療現場の課題を身近に感じるようになりました。

 

最初から大きな原体験があったわけではありません。ただ、現場と関わるほど課題の深刻さを実感するようになり、このまま医療崩壊が進めば、自分自身も患者として必要な医療を受けられなくなるのではないかと感じました。そこで、これはきちんと向き合うべきテーマだと思うようになったのです。

 

NPOとして取り組むことも最後まで悩みましたが、この問題は全国共通であり、昨年シリコンバレーを訪れた際には、世界共通の課題でもあると感じました。

 

数十の現場を助けるだけではなく、もっと抜本的に解決したい。そう考え、あえて事業としてこの問題に挑む道を選びました。

 

神馬氏:私が氏家と出会ったのは、創業前の2021年秋でした。当時は看護師3年目で、消化器内科・外科に勤務し、がん患者さんと向き合う日々を送っていました。そこにもコロナが押し寄せてきて、「うちは診ません」と言っていた状況が、翌週には「あなたの部署で診てください」に変わりました。

 

免疫力の低下したがん患者さんを守りながら、コロナ疑いの患者さんも受け入れなければならず、思い出せないほど忙しい毎日でした。

 

その後、これからの働き方を考えていたときに知人から紹介されたのが氏家でした。看護師のメンタル不調に向き合う会社があると聞き、現場にいた私は、研修や論文などを活用した解決策をまず思い浮かべていたので、「会社という形で解決する方法があるのか」と強く印象に残りました。

 

その後、いったん病院に戻りましたが、現場の中だけでは変えられないことがあるとあらためて感じました。そこで昨年、再び氏家と合流し、現在の事業に取り組んでいます。

現場を誰よりも理解し、看護の哲学を守る

仕事におけるこだわりを教えてください

氏家氏:一番こだわっているのは、どこよりも現場に向き合い、現場を理解することです。そのため、神馬をはじめとする看護師チームの意見を最も尊重しています。

 

一方で、現場からは「うちの部署ではできない」「夜勤だからできない」といった声が出ることもあります。そうした声の背景や、現場が大切にしていることは尊重しながらも、「それでも必ずできる方法はある」と考え、どうすれば実現できるのかを徹底的に議論します。

 

患者さんや看護師と向き合い続けながら、現場にとって本当に必要な仕組みをつくる会社でありたいと考えています。 

 

神馬氏:私自身も現場を経験してきたからこそ、現場が大切にしているものを壊してまで効率化を進めることはしないと決めています。注射や点滴、食事介助ができれば看護が成立するわけではありません。そこには、患者さんとどう向き合うかという看護の哲学があります。

 

単に作業を効率化して「残業が減ってよかった」で終わってしまうのであれば、それは本当の意味での解決にはならないと思っています。

 

かつての看護現場には、自己犠牲によって仕事を成り立たせるような側面もありました。私自身も、毎朝1時間前に出勤しないと気が済まない時期がありましたが、その働き方を60代、70代まで続けられるとは思えませんでした。

 

だからこそ、その組織が大切にしている看護を守りながら、自己犠牲に頼ることなく続けられる働き方を一緒につくっていく存在でありたいと考えています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

氏家氏:最大の壁は、昨年の事業転換でした。メンタルヘルスという繊細で社会的にも受け入れられやすいテーマから、スポットワークや人材の領域へ踏み出すことには大きな葛藤がありました。

 

特に医療業界では人材サービスに対して逆風が向きやすく、これまでお世話になってきた看護師のユーザーや医療機関が離れてしまうのではないかという不安もありました。以前のアプリを今も約2,500人の方に使っていただいている中で、これまで応援してくださった方々を裏切るような気持ちもありました。

 

社内でも、事業転換は簡単な決断ではありませんでした。神馬をはじめとする看護師のメンバーはスポットワークに強い抵抗感を持っており、転換を決めるまでには泣きながら議論したこともあります。

 

看護への思いが強いからこそ、「看護を軽んじることになるのではないか」と感じるほど、それまでとは大きく異なる考え方だったのだと思います。

 

それでも、この4〜5年で痛感したのは、自分たちが提供したいものではなく、現場が本質的に必要としているものを提供しなければ意味がないということでした。

 

逆風があることも覚悟したうえで、現場の課題を本当に解決するために、事業転換へ踏み出すことを決めました。決断するまでには、約1か月かけて徹底的に議論しました。

 

神馬氏:私自身はもともと、石橋を叩いて渡るような保守的なタイプです。

 

相手が大切にしている看護を尊重するあまり、一歩踏み込んだ提案をためらってしまうことがあり、そこは今でも自分自身の壁だと感じています。話を親身に聞くだけでは、現場の課題を前に進めることはできません。

 

その点、氏家は私とは真逆の性格で、次々とアイデアを出し、ときには無鉄砲に見えるような提案をしてくれます。「挑戦して駄目だったならいい。でも、挑戦せずに駄目だと結論づけるのはなしだ」という姿勢には、私自身も最近ハッとさせられることがあります。

 

現場を大切にすることと、現状を変えるために一歩踏み込むことの両方が必要なのだと感じています。

現場が本当に必要とするものを、届けたい

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

氏家氏:事業転換の壁を乗り越えられたのは、現場が本当に必要としているものを届けたいとの思いがあったからです。

 

神馬に「現場は何があれば嬉しいのか」と率直に尋ねたとき、「正直、アプリはいらないかもしれない。やっぱり人が欲しい」との言葉が帰ってきたことで、そうか、と腹落ちしたのを覚えています。

 

目の前のニーズに応え、抜本的に課題を解決したいとの気持ちが、進み続ける原動力になっています。

 

神馬氏:私の支えは、対話すれば同じ専門職同士で分かり合えるとの実感です。現場が納得できないのは、自分たちの看護を否定されたくない、守りたいものがあるからこそだと思います。

 

トップは導入したくても現場が動かない難しさはありますが、きちんと向き合えば一緒に前へ進めます。実際に、休床していた病床を再び動かせるようになったり、働きに来た看護師がそのまま就職を決めたりと、現場が変わっていく手応えが力になっています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください

氏家氏:まず目下は、「看護師のスポットワークならメリー」と第一に思い出してもらえる存在になることです。看護師にも、医療機関や介護施設にも、その認知をきちんと確立したいと考えています。

 

その先に描いているのが、社名の由来でもあるメディカルリリーフ構想です。リリーフとは、医療現場で「今日はA部署が手薄だからB部署が応援に行く」といった院内の応援体制を指す言葉です。院内でできているのであれば、院外でも同じことができるはずです。

 

将来的には、地域医療圏の中で病院やクリニック、介護施設などが互いに人材を融通し合える仕組みを一般化したいと考えています。

 

施設単位で人材を確保する方法は、すでに限界に近づいています。地域医療圏という単位で人材を考えられるようになれば、医療機関側の人手不足を解消できるだけでなく、看護師にとっても働ける場所やキャリアの選択肢が広がっていくと考えています。

 

神馬氏:メディカルリリーフ構想の実現に加えて、「看護とは何か」をあらためて問い直し、再定義 できる存在になりたいです。

 

これまでの看護では、一人の患者さんを同じ看護師が継続して受け持つことが大切にされてきました。ただ、働き手が不足するこれからの時代において、同じ人がずっと担当し続けることは難しくなっていくと思います。

 

だからこそ、AIや医療DXを活用することで、担当する看護師が変わっても、継続看護として大切にしてきた情報や考え方を引き継げる仕組みをつくれるのではないかと考えています。

 

何をもって看護とするのかをあらためて見つめ直し、それを無理なく続けられる形にする。その答えを見つけていくことも、これから取り組みたいテーマの一つです。

飛び込み、変え続ける。迷ったら立ち止まる

起業しようとしている方へアドバイスをお願いします

氏家氏:最初から美しい計画や戦略、立派な原体験がなくてもいいと思っています。私自身、最初からそうしたものを強く持っていたわけではありません。

 

事業を続けていれば、どうせどこかで転換することになります。だからこそ大切なのは、目の前でニーズを抱えている人に向き合い続けられるかどうかだと思います。

 

自分が立てた仮説を疑い、ときには事業そのものを再定義しながら、本当に求められているものは何なのかを考え続ける。そのうえで変化していく胆力があるのであれば、最初から完璧な答えを用意する必要はありません。

 

まずは一歩踏み出して、やりながら考えていくことが大切だと思います。

 

神馬氏:私は起業家ではありませんが、看護師として働く中でも、自分が何を大切にしたいのかを考え続けることは重要だと感じています。看護師の仕事は、SNSなどの影響もあり、激務や肉体労働というイメージが先行しがちで、実際にそうした大変さがあることも否定できません。

 

それでも、患者さんからふといただく一言や、その方の人生の締めくくりに寄り添う看取りなど、看護だからこそ感じられる面白さややりがいは確かにあります。

 

ただ、心に余裕がなければ、そうした経験を振り返ることも難しいものです。「看護師でいいのかな」と迷うことがあったときは、これまで自分ができたことや、患者さんとの関わりの中で「やってよかった」と思えたことを一度思い出してみてほしいと思います。

 

私自身も立ち止まって振り返る時間を大切にしているので、そうした時間を一緒につくっていけたらと思っています。

本日は貴重なお話ありがとうございました。

起業家データ:

氏家 好野 氏

早稲田大学在学中からヘルスケア領域のベンチャー企業や大手企業のヘルスケアサービス立ち上げに参画。株式会社リクルートで人材領域に従事した後、退職を経て2022年に株式会社メリー(旧:株式会社Plusbase)を創業。同社の代表として、看護師のメンタルヘルスケアをサポートする「ナースビー」の開発・提供を手がける。電子カルテや治療アプリの開発会社、精神科向け電子カルテメーカーの事業開発にも個人として参画した経緯があり、医療DX・ヘルステック領域における豊富な実績を持つ。 2025年からは同社にて看護師スポットワークサービス「メリー」の立ち上げを牽引し、2026年3月にβ版、同年8月に正式リリースを果たす。

 

神馬 紗智 氏

看護師として2.5次救急病院(600床規模)で消化器内科・外科の急性期医療に従事。訪問看護ステーションの管理者、クリニックの事業承継支援、外来勤務などを経験する。その後、2次救急病院(300床規模)で呼吸器内科・一般内科に勤務し、臨床指導者として学生教育に携わるほか、医療現場の業務改善、採用活動、ブランディングにも参画。 2022年に株式会社メリー(旧:株式会社Plusbase)へ参画し、看護師向けサービス「ナースビー」およびスポットワークサービス「メリー」のカスタマーサクセス、プロダクト企画・運用、現場導入支援などを担当。2026年に同社取締役に就任。また、国際医療福祉大学にて看護学生の非常勤講師も兼任。

企業情報

法人名

株式会社メリー(旧社名:株式会社Plusbase)

HP

https://merii.co.jp/

設立

2022年1月(2026年8月に株式会社メリーへ社名変更)

事業内容

  • 看護師の単発バイト・転職前のおためし勤務求人アプリ「メリー」の提供
  • 病院の看護部コンサルティング(現場伴走型の業務改善と負担軽減支援) 

 

送る 送る

関連記事

関連記事